6 模擬戦
「それじゃあ…行くよ」
「ああ、いつでも」
手始めに周辺に結界を張り、見られないようにする。
私たちが今いるのは学校の近くの広場みたいな公園。
場所が場所だから火属性は使えない。
(まずは相手の力量を見極めましょう)
「ウォーターウィップ」
「っと…じゃあ、ウォール」
相手の水の鞭が私の土壁にぶつかる。力は相殺されてどちらも形が崩れた。
「まだまだ行けるでしょ?」
「もちろん、小手調べだからな」
「小手調べで中級魔法の中でもムズイの使うの…?」
「これに関しては慣れだな」
「あっ…そう」
(鞭が得意ってヤバい捉え方されない…?)
「じゃあ今度はこっちから、ソウルトルネード」
「ッ、ウォーターウォール」
砂嵐を起こすと水で壁を作り対抗する、けどこれは悪手だ。
水壁に砂が含まれていって細かな制御がしにくくなる。
それに加えて砂で視界が悪化する。
土属性を使えない限りこの方法は逆効果になる。
零の水壁にだんだんと砂が侵入し、壁の制御が甘くなる。
視界が悪くなったところに追撃する。
「アイススピア」
「っておい!フレイムウォールッ」
「おお、さすが」
「おまえいくつ同時に魔法展開できるんだ…?」
「簡単なやつなら3、4つはいけるね」
「これを簡単って…この隠蔽の結界上級魔法だぞ。おかしいだろ」
「生憎環境が普通じゃないのでね」
「そうか…」
すると何かを諦めたような表情をしてなにかブツブツ言い始めた。
身体強化で聞き取ろうとすると聞こえた言葉に反射的で身体強化を使って逃げる。
「ッッ…危な…」
「これを避けるのか…」
零が使ったのは向こうで災害級の魔法として知られていたウォーターウェーブだった。
津波を作る魔法、戦争の魔法戦で必ずと言ってもいいほど使われる殺傷力の高い危険な魔法だ。
「ていうかこっちスカートなんだけど、ちょっとは考えてよ」
「そっちはジャンプした瞬間に隠蔽魔法使ってただろ、魔法技術どうなってるんだよ…」
「あの一瞬で気づくなんて、さすがね」
「これでも白ノ瀬の当主候補なんでね」
「そうだったわ…」
(これならちょっとくらい本気出してもいいよね…?)
「ライトニングサンダー」
「はっ?光属性持ちだと…」
この感じは闇属性は持ってないのだろう。
光属性を防御できるのは闇属性だけなので仕方なく避けることにしたようだ。
そこに追い打ちをかけていく。
「ダークキャプト」
捕縛魔法を使うと解除できないらしく抜け出すのを諦めたようだった。
「降参だ、それにしてもまさか全属性持ちなのか」
「ご名答、って言っても火属性以外全部今回で使ってるからね。わかるのは当然か」
「全属性持ちなんて初めて見たぞ…」
「まあ、細かい理由は気が向いたら話すよ」
「可能なら今度教えてくれ」
「わかったわ、それじゃあ帰るね」
「…とりあえずこれ解除してくれないか」
「あ、ごめん忘れてた」
「忘れるな!ていうかこれどうするか…」
ウォーターウェーブで水浸し、諸々の魔法で地面がえぐれていた。
「この程度ならちゃちゃっと直せるよ」
「じゃあ頼んでいいか?」
「了解」
ササッと魔法で直すと零がなんとも言えない表情で立っていた。
「魔力操作も魔法技術も馬鹿げてるだろ…」
「それは褒めてるの?」
「もちろん褒めているさ」
「まあいいや、今度こそ帰るね」
「わかった、じゃあな」
「じゃあねー」
****
「綾…絶対に逃さない」
思わず呟いてしまったが、どうやら綾はもう帰ったらしく姿は無かった。
自分で言ったことに引いているが、そうしたいと思っている自分がいる。
最初は好奇心だった。
たまたま通りかかった家の前でまるで泥棒のようにコソコソしていて観察していると次の瞬間、隠蔽と認識阻害という光属性と闇属性の相反した二属性を連続で使っていた。
普通ではありえないことだった。
闇属性も光属性も数百人にひとりかふたりいればいい方なぐらい珍しい属性。
日本にいる魔術師は万にも満たない。
その中でどちらも扱うことのできる逸材はおそらく今まで現れたことはないだろう。
それに彼女は好ましい方の人間だった。
自身の顔が整っているのは自覚しているし、白ノ瀬家は魔術師でなくとも知っている人の方が多い。
玉の輿を狙ってか幼い頃から女性に言い寄られていた。
それこそ学校の教師までだ。
いつしか女性を避けるようになっていったが、彼女は今までの女性とは違った。
自身の家の本家の人間だと知っても対応を変えないし、ちょっとしたことで頬を染めることもない。
今までの対応を考えると新鮮だった。
そのような貴重な存在を逃がすことはできない。
(さて、どう捕まえてやろうかな…)
そう思いながら彼女を捕まえるために策を練るのだった。