13 異変
「零…!?」
「…は?」
私が声を上げたことで二人の視線がこちらを向く。
そして停止する。
「…綾、なぜここにいる」
倉庫に零の魔力が充満している。
けど、私が驚いたのはそこではない。
「は、離して…」
そこにいる女子生徒の肩と手首を身体強化して掴んでいるのだ。
魔力感知を使っているから倉庫内に充満する零の魔力も、零の両腕に魔力が集まってるのもわかる。
これは確実にあざになる。
下手したら骨に影響が出るレベルの強さだ。
「…零、説明してくれるわよね?」
「…ああ」
***
零の説明はこうだった。
私が大玉転がしをやっている間に学校内に複数のに変な魔力反応があって一番近いこの倉庫に向かったら彼女…ニ年の白井莉佳というこの人が魔物呼びの笛を使おうとしていたから慌てて拘束したのだそう。
しかも付近には前世はもちろん今世でも禁忌である魔物強化薬が複数あったのだという。
しかし、強化薬はこの学校で教えられることはなく作り方はおろか、存在自体秘匿されているものだという。
零は実力と白ノ瀬の人間であることを踏まえて特別に知らされているらしい。
(こっちにも強化薬を作る手段はあるのね…)
魔物の強化薬は香木と液薬型、もしくは錠剤型がある。
香木は効果は弱いが、効果が及ぶ範囲が広く無差別に強化される。
液薬や錠剤は魔物の体内に入れる必要があるが、香木の何倍、下手したら何十倍もの効果がでる。
どちらも最高ランクの禁薬指定だ。
「なぜこれがこんなにもあるのかしら」
知識として作り方走っているがこの世界に作る素材があるとは思えなかった。
向こうではダンジョンでしか取れない素材もあったはず。
この世界にダンジョンがあるか把握はしてないが、向こうとは違いかなり厳しい世界だからそういった危険物を個人が簡単に持ち運べるとは思えない。
「さあな、だがこれらの存在は彼女が知り得ないものだ。どこかに協力者がいるのだろう」
「まあこの感じだと捨て駒扱いよね」
「だろうな」
「…ちなみに裏にいると思われる奴に心当たりは?」
「…あるにはあるが」
「なら細かい機密に触れる内容はいいから一つだけ教えて。規模は?」
「…かなり大きい」
「了解、それだけ分かるなら十分ね」
私がそう言うと零は怪訝そうな顔をして黙ってしまった。
大方、細かい内容を詳しく聞いてこないことを訝しんでいるのだろう。
普通の返し方がどうなのかはわからないが、私は前世での立場もあるから機密情報の扱いについては理解してるつもりだ。
規模を話してくれるだけでも上々だし、おいそれを聞けるわけがない。
「んじゃ、白井莉佳だったよな?洗いざらい吐いてもらうぞ」
(…ドラゴンも裸足で逃げ出しそうな凶悪な笑顔ね)
やっぱり零を敵に回さなくてよかったとしみじみ思った。
零と初めて会った時の対応は間違えてなかったと過去の自分に感謝する。
「てか零、いい加減離したら?」
「だったら綾、お前がやれ」
「はいはい…プラントネット」
丈夫さで言うと氷のほうがいいのだが、凍傷なられるのはめんどいのでやめておく。
私が魔法を使うと彼女は驚いたのか目を見開いた。
「…そう言えばどこがで見たことがある気がするのだけど…どこかで関わりあったかしら?」
「…気の所為よ」
気の所為と言っているけど反応が嘘をついている人のそれだった。
戦争の時に謎なくらい捕虜の尋問を任されていたから心拍数や瞳孔の開き具合等で言葉の真偽くらいは見極められる。
どこかで関わっているのは確実だろう。
しかし普通に関わっているなら私も覚えているはずだし、嘘をつく必要もないはず。
(さて…負荷があるからあまり使いたくないんだけど…)
「…マインドアイ」
人の本質を読み、心をも読む闇属性魔法でいわゆる精神干渉魔法と呼ばれるもの。
自分の脳にもう一人分の人生の記憶を短時間に一気に入れるから脳への負荷が大きい。
相手も魔法の影響で気絶する。
「…とりあえず騙されるのはわかったからいいや…頭痛い…」
「…何をしたんだ?」
「精神干渉魔法使って読んだ…負荷すごい…」
「…なるほど…って、何で知ってるんだ」
「…それはあと…とりあえず騒ぎになる前に止めるわよ」
「…ああ、あとで話は聞かせてもらうからな」
「得た情報はあとでまとめるから…」
事前に確認してたのと同じで反応箇所はここを含めて三カ所。
「…白玖、鈴葉」
「「はーい」」
「ニ人で校舎裏の魔物の対処をお願い」
「「了解」」
二人(厳密には二匹)はそう返事をすると姿を消して飛んでいった。
「それじゃあ私たちも行くわよ」
「…ああ」
私たちは倉庫に結界を張ってその場をあとにした。
***
「そう言えば思ったけどなんで校内に魔物がはいれるの?たしか結界の効果に魔物がはいれないようにするのがあったはずだけど」
「さあな、お前でもわからないのか?」
「私をなんだと思っているのよ…でもなんかあった気はするけど覚えてない」
「なんでそんな重要なことを忘れるんだよ」
「忘れてしまったものはしょうがないじゃない」
走りながらそう会話をしていると中庭にたどり着いた。
「…かなりいるわね」
こっちでの呼び名は知らないが、上位種と呼ばれるアーマードベアやレッドボア数体、シルバーウルフが数十体がいた。
しかも強化薬を服用済みと思われる。
「AランクどころがSランクにも届きそうね…」
「…お前は何を言ってるんだ?」
「何でもないわ……張:人避け、隠蔽、密閉」
手始めに結界を張り他の人や外の魔物に認識されない空間を作る。
「これでこれ以上魔物は来ないわ」
「わかった…やるぞ」
「ええ」
銃刀法違反になるがそこは諦めて空間収納から短剣を出す。
「…付与」
光属性魔法を付与して、アーマードベアに投げる。
一番強いのはコイツだし、素材も欲しいから先に行動不能に持っていく。
「…発動」
短剣に付与した魔法『サンダーボルト』で電流を流し、動きを止める。
「零は何もしなくていいから」
「人ではあったほうがいいだろ」
「このあと魔法部門の戦闘に出るんだから魔力は温存しときなさい」
「…わかった。……ありがとう」
「いいから大人しくしてて」
「…ああ」
アーマードベアを無力化してレッドボアに向き合う。
「アイシクルランス」
一撃で脳天を魔法で突き刺して終わらせる。
「じゃああとはこれだけね」
普通の人は苦労するのかもしれないが私にとってはシルバーウルフ数十体は大した数じゃない。
「ウィンドカッター」
難なく首を飛ばす。
血が飛び散ると後処理が面倒くさいからついでに風で血を空にまとめる。
「はいおしまいっと」
零は唖然としていた。
そして最後の仕上げにはいる。
(風よ…)
血を風で空に運びながら短剣でそっと胸を開く。
魔物の魔核は心臓部分に存在するからそれを摘出すれば魔物は死ぬ。
毛皮はうまく加工すれば非常に防御力の高い服を作ることができる。
てきるだけ傷を小さくする必要があった。
最低限の傷だけで魔核を摘出し、血が地面に落ちないように風で運ぶ。
地味ながら気力を使うものだ。
私がその作業をしている間零はずっと観察していた。
「…よし、できた」
「終わったのか」
「ええ」
『マスター、こっちも終わったよー』
『わかった、ありがとね』
「向こうも終わったみたいだし戻るわよ」
「…これはどうするんだ?」
「ん?ああ…」
風で魔物を一カ所にまとめる。
「…収納」
空間収納の扉を形成して中に入れてく。
ついでに空に飛ばしてる血も瓶を取り出してなかに入れる。
「…俺はお前のことで何回驚けばいいんだ?」
「…ノーコメントで」
驚かせている自覚はある。
そしてこれからも驚かせる自信があった。
「はぁ…ったく…」
呆れてものも言えなくなっているけどそこは慣れてもらうしかない。
「じゃあ私は鈴葉と白玖に任せた方を確認してくるから先に行ってて」
「ああ、わかっ…!?アイスウォール!」
「は…?」
なぜか零が魔法を発動させたと思ったら後ろから氷の矢が飛んできた。
「びっくりした…」
「ッチ…逃げたか…綾、大丈夫か?」
「え、ええ…ありがとう…」
「とりあえずお前は一人になるな、絶対に使役獣と精霊をそばにおけ。いいな?」
「…ええ、わかったわ」
「…ならいい。…校舎裏まで送ってく」
「…お願いします」
2人で校舎裏へと歩く時間はなぜかとても長く感じた。




