「神隠し」
この国の人々は太古より様々な自然の産物を神格化して崇めていた。
人々は、その神々を祀るための社を国中に建立した。
ここ、霊山媛宮神社もその一つ。
半世紀ほど前までは、付近の集落の民がこの神社を氏神として祀っていた。しかしあまりにも不便ということで集落の民は町へ移り、この神社だけが取り残されていた。当然、半世紀の間にこの神社に来客が来たことはない。
廃墟と化した神社本殿の雨漏りだらけの天井を見上げて私は寝転んでいた。神族の者は不老不死なので、私は永遠にこの神社で巫女と共に何時もと変わらぬ日々を送らなければならない。
「霊山様。」
私を呼ぶ声が聞こえた。
「何の用?」
「里に間諜に行っていた庵裡が只今帰還致しました。」
「庵裡か。」
「どうだった、里は?」
「どうやら人間はこの山を開発してリゾート地にしようとしております。」
「相変わらず人間は。。。」
「どう致しますか?」
「所詮人間だ。天災を起こしてこの山に近寄れないようにすればよい。」
「・・・人の血の匂いがするな。」
「左様ですか。」
「庵裡お前まさか。。。」
「滅相もございません。」
「わかっている。どうせ下見に来た人間だろう。神隠しにでもあわせるか。」
「では、私が見てきます。」
「私も行く。お前達も来い。人間を苛めるのは久々に痛快だぞ。」
私の呼びかけに応じ、残りの二人の巫女がついてきた。勿論、巫女と言ってもうちの巫女は人間ではない。山に住む精霊が人格化したような感じの存在だ。
「こいつです。」庵裡が指差した所には、一人の人間の男が倒れていた。
「なんだ、死体ではないか。放っておけ。」
「霊山様。まだ息があります。」
燈弥狐が言った。
「そのうち死ぬだろ。」
「あ、ああ・・・。助けてくれ・・・。」
「まずいな。私達の存在が気付かれた。」
「とりあえず口外されないように神社に閉じ込めておくか。」
それから数日がたった。神社に監禁されたあの男はいつのまにか傷が治癒していた。
「あとは、餓死するのを待てばいいですね。人間の木乃伊なんて何百年もお目にかかってないわ。」
「助けてくださり有難うございます。」
あの男が監禁していた部屋からここまで来た。
「もう傷も治ったんで、僕は山を下ります。」
「待て。」
「何ですか?」
「私達はお前を里に帰らす気などない。」
「なんでですか?」
「愚かな人間には天罰が必要だ。お前はここに死ぬまでいろ。」
「どういうことですか!」
「そういうことよ。」
「まあ、その代わり食事ぐらいは与えてやる。その代わり雑用ぐらいはちゃんとやりなさいよ。」
「は、はい。」
それからまた数日がたった。
男は私達の命令に従って色々な雑用を黙々とこなしている。そんな折、
「もう限界だ。なんで僕が死ぬまでこんな山奥に軟禁状態にされなきゃいけないんだ。僕が何か罰当たりなことしたか?」
「愚かなる人間は神々の領域である霊山を踏み躙るという愚挙にでた。その人間に罰を与えるのは私達としては当然のこと。」
「それって『霊山リゾート計画』のことですか。」
「そうよ。知っているなら私達が与える罰を受けなさいよ。」
「そのことなんですが。」
「何よ?まだ文句あるの?」
「実は僕の兄が自然保護活動をしていてこの計画に反対したんですよ。そしたら、開発業者がヤクザに依頼して僕の兄を殺し、僕を山中に投げ捨てたんです。むしろ、開発業者が憎い点ではあなたたちと同じ側の立場なんですよ。」
「それは悪いことをしたわね。でも私達の存在を知られてた以上、あなたを里へ帰すことはできない。私達にできることはなんでもする。だからここで死ぬまでいてくれ。」
「い、、、、、いや、、、です。」
「あなたの気持ちは分かるわ。でも、、、」
「霊山様、その程度にしてやってください。」
庵裡が私を制止した。