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子を成せ! と言われたが、勇者は男の娘賢者にしか興味が無い模様

作者: @芳樹

勇者は魔王を打ち取った。

六年に続いた勇者の旅は、ここに幕を下ろす。


しかし、勇者にはやるべき使命があった。

それは、子孫を残す事。


魔族の残滓は未だに世界に蔓延り、駆逐することの出来ない魔の瘴気は再び世界を覆いつくすであろう。

それが何年先か、何十年先かは分からない。

だが、再び魔王となる強大な存在が生まれることは間違いない。

だからこそ、魔王を打ち取った勇者の血筋を絶えさせてはいけない。


「……で、俺への最後の命令は子孫繁栄のためにヤリまくれだとさ」

「言い方どうにかならない?」


国王からの最後の指令、それは勇者の子孫を残すことだ。

来るべき日に備え、優秀な血筋を絶えさせてはいけない。

よって、国王は勇者に対し「子を成せ! 勇者の血を後世に残すのじゃ!」と力強く命じたのが、ほんの数時間前の出来事である。


「言葉の通りだろ、俺はこれから死ぬまで種馬みたいな生活をして生きていかなくちゃいけない」

「仮にも勇者だろ君は、もっと威厳ある言葉遣いをだな……」

「じゃあ性行為」

「そっちじゃない! はぁ、なんでこう君は」


勇者となった男、ナナサキ=シュンはその威厳ある肩書とは裏腹に、平然と下品な言葉を並べては相談相手である賢者を困らせていた。


「ねぇシュン、難しく考えすぎじゃないか?」

「確かに……じゃあシンプルにヤリチ――」

「違うそうじゃない! はぁ、君はいつもそうやって僕をからかうんだから」


呆れる賢者は何度目か分からないため息を吐いてから、わざとらしく咳ばらいをして話を本題に戻す。


「いい? 君は魔王を倒した」

「うん、そうだね」

「もう戦わなくても暮らしていけるはずだ」

「そうだな、金もいっぱい貰ったから働かなくても生きていけるな」

「その上、王からの命令で色んな女性と……その……えっち……なことしてもいいって言われてるはずだし」

「えっ可愛ッ、すまんエッチってもう一回言ってみて」

「うるさい! 話を最後まで聞いてよ!」


可愛らしい怒鳴る賢者の顔は血が沸騰しそうな程赤く、子供の様に腕をぶんぶん振って威嚇している。

本人は本気で怒っているようだが、まるで小動物を見ているかのような愛らしさ満点の姿になっていた。


「ごほん――いい? 君はもう自由だ、なにしたって許されるんだよ? だったら、好きに生きていいはずだ」

「好きに……生きるか……うーん。確かに今まで戦い続きだったから、そんなこと考えたこともなかったな」

「でしょ? 勇者の特権だよ! 豪遊するも良し! のんびり過ごすのも良し! その……色んな人と結婚するのも……よ、よし!」

「なぁ、いちいち可愛らしさ出すの止めてくれ。萌死にする」


『よし!』と言うたびに両手をギュッと握って力を込めるその姿に魅了され、シュンはますます賢者に惚れこんでしまう。


「真面目に聞いてる!? 僕本気で言ってるんだよ!?」

「そんな可愛い姿が本気っていうなら、俺は『本気』になっちまうぜ」

「ああもう下脱ごうとしないでよ! あーもう!」


自身のズボンに手を掛けるシュンを全力で止める賢者。

勇者の意味不明なこの行動も、旅の途中でも彼は隙があれば賢者の前でズボンを脱ごうをしていたので、もはや二人の間でお家芸のようなものになっていた。


「また確かに、お前の言う通りかもな」

「はぁ……はぁ……え?」


全力で止めに入った賢者が息を整えている間に、シュンは語り出すように一人でに言葉を紡ぐ。


「俺達は勇者を倒した為に旅をした。色んな辛い事もあったし、悲しい出来事も沢山味わってきた」

「――そうだね、僕達頑張ったよね」

「魔王を倒すなんて偉業を成したんだ、せっかくだしパーッと好きなことしてみるよ」

「そ、その意気だよ! 君にはその資格があるんだし! 僕なんかに相談しに来る暇あったら、今すぐにでもやりたい事をするべきだよ!」


賢者の言葉にそそのかされるように、勇者は立ち上がる。


「よし! 決めた!」

握り拳を天高くつき出して、勇者はある決断をする。

そして、一世一番の大勝負に繰り出す。


「結婚しよう! マオ!」

勇者の隣で言葉を投げかけていた賢者……マオと呼ばれる男の娘に、愛の告白をした。



「なんで、あの人はこうも変人なんだろうか」

告白を受けて数週間後、賢者マオの気持ちは憂鬱そのものであった。

あれから、勇者シュンの愛の告白は止まる事を知らない。

いくらマオがその告白を断ろうと、懲りずに何度も結婚の申し出をしてくる。

それも、勇者に対し様々な女性……それも優秀な血筋を持つ女性たちの婚約をすべて破棄し続けるという徹底ぶりだ。


どうして自分なんだ……と靄の様にかかった言葉がいつまでたっても頭から離れない日々を過ごしていた。


「まぁいいか。そのうち諦めてくれるだろう」

半ば強引に気持ちを切り替えて、マオは街中を歩き進める。


「ええっと、買わなきゃいけない魔導書は……と」

目的の魔導書を探すために街中に出たが、今暮らしている場所が大国ということもあり簡単に目的地にたどり着けない。

貰ったメモを頼りになんとか近くまで来られたが、賑わいを見せる露店の中でたった一冊の本を探し出すというのは至難の業である。

ここは誰かに聞いた方が早いだろうと思ったマオは、すぐ隣で野菜を売っている夫婦に話しかける。


「あの、すいません」

「おおいらっしゃい! 可愛らしいお嬢さん、今なら安くしとくよ?」

野太い声で積極をする店主は、新鮮な野菜を見せつけるようにマオに突き出した。


「ああいや、そういう訳じゃ」

「彼氏さんに手料理かい? こんな可愛い彼女に作ってもらえるなんて羨ましい限りだよ! がはは!」

「あの、その、ちがくて」

野菜を買いに来たわけではない事を話すよりも先に、一歩的に話を盛り上げる店主。


男らしい声色と逞しい体つきに威圧されるように身を縮めてしまうマオに助け船が入るように、

「――ちょっとあんた!」

っと、店主の隣にいた女性が慌てて止めに入る。


「良く見なあんた! この方は勇者様の付き人である賢者様だよ! バカでかい声で何失礼なこと話してんだい!!」

「ん!? あの賢者様か!? こ、これは失礼しました!」


見せつけてきた野菜よりも大きい店主の頭を思いっきり殴りつけた女性は、マオに対し深々と頭を下げた。

「まったくこのバカ夫は! ……すみません賢者様、とんだご無礼を」

「い、いえ! とんでもないです!」


女性をなだめる様に両手をあげて落ち着くように諭すマオに対し、何度も頭を下げて謝罪する女性。

その異様な光景は周りにいた通行人の注目を集め、周りに人だかりが出来始める。


「あれが賢者様かぁ」

「あれ? 賢者様って女の子だっけ?」

「違うらしいぞ、どうやら男らしい」

「えー全然見えなーい!」

「あれで付いてるなんてお得じゃん!」

「好き!!!!!!!」

老若男女問わずマオを取り囲み、あっという間に数十人もの人が集まってくる。

魔王を倒した勇者、その側近を務めた賢者ともなれば一目見ておきたいという人間はこの世界では数知れず。

その上顔立ちが出来すぎなくらい整い、魔族でさえ魅了してしまうと噂に名高い美貌の持ち主と言われていた。

注目を集めない理由はないだろう、それくらいにはマオはこの世界では有名な人物なのだ。


「あわ、あわわわ」

しかし、自身の持つ名声とは反して彼は目立つことをあまり好いてはいない。

誰かから尊敬されるとか、皆の注目を集めることは世界を救った賢者となった今でも慣れない様子だった。


「す、すみません僕急いでいるのでッ!」

赤面するマオはこれ以上人目に付きたくない一心で、人混みを掻き分け脱兎のごとくその場を逃げ出した。

ざわざわと三者三様の声を出す民衆の中、呆然と見つめる店主はボソッと独り言を漏らす。


「――にしても、可愛い人だったな……あれが男なんて信じられん……」

男という事実を知った今でも信じられない様子だった。

一度見てしまえば忘れる事の出来ない可憐さを持ち、庇護欲を掻き立てるような異質な魅力を兼ね備えている。

故に、勇者であるシュンは彼の事を好いており、同性という事実を理解して尚何度もアプローチを続けているのだった。


「でも、ああいう子はなんて言うんだったかしら?」

店主が魅了されているのを他所に、遠目に映るマオの後姿を見つめながら、女性はある事を思い出す。


それは、勇者が賢者に対しよく言っているとされる不思議な単語。

聞きなれないそのあだ名のようなものを思い出そうとすると、意気揚々と店主がその単語を言い始めた。


「男の娘、だそうだ」

「え? なんだいそれは?」

「その通りさ、男なのに女の様に可愛い人間をそういうらしい」

「男の……子? なんだい普通じゃないか」

「いや違うぞ『男の娘』だぞ。子の部分が娘になってるんだ」

「どっちも同じじゃあないか」

「それ勇者様の前で言ったらぶっ飛ばされるぞ」


男の娘(おとこのこ)

その存在は、幼く可愛らしい少年を表す「ショタ」でも、美形の顔立ちをした「美少年」でも定義が出来ない。

不思議で、魅惑的で、神秘的な存在である。

シュンが元居た世界では、マオのような存在はそう言われていたそうだ。


「なんにしても、マオ様可愛すぎるなぁ……」


未だに賢者マオの可愛さにだらしなく見惚れる店主に対し、女性は腕を組み怒鳴る様な大声を出した。

「何馬鹿な事言ってんだいあんた! ちんたら働いてたら飯抜きだよ!!!」

「ひ、ひぃぃぃぃ!」

見惚れる店主のケツを叩き入れると、怯えた様子で接客を再開し始めた。



「はぁ……やっと帰ってこれた」

目的だった魔導書を手に持ち、がっくりと肩を落とし疲労感を募らせるマオ。

あれから人混みをさける為に遠くへ逃げて、そのせいで街中で迷子になりかけ、ようやく目的を達成したのが夕暮れになってしまった。

お昼に出かけてくると言って家を出てから数時間、思っていた以上に時間を割いてしまった事に喪失感を覚えながら、自宅の玄関ドアを開ける。


「ただいまー」

「お、ようやく帰って来たかマオ」

「……なんでいるんですか、シュウ」


家に入ると、そこには他人の家とは思えない程くつろいでいる勇者シュウの姿がそこにはあった。


「鍵かけてましたよね?」

「あー、魔法で開けたよ」

「僕の鉄拳を食らいたいようですね?」

「ご褒美じゃん、よし! ばっちこい!」

「……無敵じゃんこの人」


胸板を大きく出して無防備な姿を見せつけているシュウに対し、飽きれてため息を吐く。


「いいかいシュン、君は勇者である以前に一人の男性なんだよ? 僕みたいな男を相手にするより他にやる事あるだろ?」

「マオをメス堕ちさせることか?」

「違うよ!」

「あ、俺が受けになるって話?」

「違うよ!!!」

「じゃあ、女性と結婚して子を成すってことか?」

「違ッ……そうそれ!」


危うく否定をしかけた言葉をひっこめてから、マオを「それだ!」と言わんばかりに人差し指をシュンに突き立てる。


「君は王様からの命令で、子孫を残さないといけない。こんな所で遊んでる場合じゃないんだよ!」

「遊びじゃない、俺は真剣にお前の事を――」

「ダメって言ってるでしょ! それに、僕達は、その、同性同士だし」

「いうほど問題か?」

「大問題だよ! 結婚も出来ないし! 子供も……望めないだろ!」

「でもマオはウルトラスーパーデラックス可愛いじゃん」

「もー! そういやって僕をからかって!!!」

「――俺は本気でいってるんだがなぁ」


必死に説得を繰り返すマオに反して、首を曲げて納得のいっていない様子で腕を組むシュン。

ここまでくると自分が間違っているのかと錯覚してしまいそうだと思ったマオは、改めて彼との認識を合わせる為に話題を振る。


「ねぇ確認だけど、シュンの元居た世界では、その、同性で……付き合うのは普通の事だったの?」

「まぁ、主流ではなかったな」

「だよね! だったら尚更――」

「でも、国によっては認定してたところもあったはずだぞ」


シュンがこの世界に勇者として転生してくるより以前、生まれ育った国では同性での婚約は珍しく、男女で籍を入れることが基本ではあった。

よって、本来彼が同性同士での恋愛には多少の抵抗感がある……はずなのだが、シュンはそんな事を気にしてはいない様子だった。


誰かを好きになるのに、常識や規則に囚われない。

彼だからこそ今のようなややこしい状況を生み出してしまっているのは確かなのだが、言いたいこと、やりたいことに嘘をつけたり避けたりすることを一切しない純粋な性格は、シュン自身の魅力的な部分でもある。


「主流がどうとか、世間体がどうとか、そんなのはどうでもいい」

シュンはだらしなくくつろいだ姿勢を正してから、腰かけていた椅子から立ち上がる。


「同性同士でも構わない。俺は何言われようと、お前を諦めないぞ」

玄関で立ち尽くしているマオにゆっくりと近づきながら、力強い言葉を投げかける。

その表情は真剣そのものであり、先ほどまでふざけていた時との落差でマオの心理を揺さぶる。


「俺はお前が好きなんだよ」

トドメと言わんばかりに、シュウはマオの肩に触れながら愛の告白をする。


「い、いや、でも」

「何照れてるんだよ、目合わせろ」

「や、やめ」


――いけない


このまま彼と目を合わせてしまうと、何も言えなくなってしまう。

認めてしまう。

どうでもよくなってしまう。


好きに、なってしまう。


「――――ッッッ!!!」

このまま彼のペースに乗せられてしまうと感じたマオは、すぐ目の前にいるシュウの体を両手で押して突き放した。


「マオ、一体どうして」

「シュン! 僕は……僕は!」


顔を赤らめ、額から汗が滴る位高まった熱を動力にマオは最後の手段を取る。


「今から僕は、君に酷い事を言う」

「――酷い事?」

「そうさ、もう縁を切りたくなるようなすごく、すごく酷いこと言うね!」

「わざわざ宣言してくれるって……ほんとお前可愛いな」

余裕たっぷりにほくそ笑んでいる勇者に対し睨みを利かせて威嚇する。


「シュウは強引だし、めちゃくちゃだし、僕の話全然聞かないし」

今まで貯め込んでいた不満が爆発したかのように、次々とマオはシュウに対して言葉を投げつける。

視線を合わせることなく、まるで地面に向かって叫ぶ彼の言葉を、シュウは黙って聞いた。


「初めて会った時だって、優秀な人を差し置いて僕なんかを誘うし」

――でも、才能の無い僕を選んでくれた。


「旅の途中だって、ふざける場面じゃないのに茶化すような事を言うし」

――それは、張り詰めた空気を和らげるためにやっていることを知っている。


「魔王を倒した後だって、僕の事ばっかり構って……」

――きっと、彼は僕の事が本当に好きなのだろう。


けれど、それではいけない。

勇者の血筋を、僕のせいで絶えさせるわけにはいかない。


――だから、言うんだ。


「そんなシュウのこと、僕は……僕は……!」


嫌い。

その言葉を言えば、彼だってわかってくれるはずだ。


向けられた行為も、与えられた可能性も。

全てをここで投げだせば、彼はきっと分かってくれるはずだ。

自分の事を諦めて、色んな女性と幸せになるべきだ。


脳内を巡るそんな言葉の数々が、後押しするようにマオの口を開かせる。


「シュウの事が、き……き……!」

嫌い。

早く言うんだ、と優柔不断の自分を鼓舞するように拳を硬く握り込む。


嫌い。

嫌い。

大嫌い。


たったその言葉を言うだけだ。

それだけの、はずなのに。


「――う、うぅ……」

詰まる言葉を言い放つよりも前に、マオの心が折れてしまう。

言うべき言葉が涙となって、ポロポロと地面を濡らす。

一つ、また一つと落ちていく涙の雫は止むことは無く、服の袖でいくら拭えど収まる気配がない。


「おいマオ、大丈夫か?」

黙って聞いていたシュウは急いで彼の傍に駆け寄り、心配そうにマオを見つめている。


「う、うえぇぇぇぇ!」

いよいよマオを声を上げて泣き出して、崩れ落ちるようにその場で座り込んでしまう。


嫌い。


――そんなの、言えるわけないじゃないか


勇者がこの世界に転生してきたあの日から、マオは彼に特別な感情を抱いていた。

それが憧れなのか、はたまた別の感情か。

今はそのことを思い出せないが、心にひそめていた感情は、旅を続けるごとに大きくなった。


仲間と旅した数々の毎日。

魔王の軍全を退け、平和を徐々に取り戻していく日々。

そして、魔王を倒し平和になった今。


ずっとそばにいて、ずっと行為を寄せてくれた人間に対し、嘘でも『嫌い』なんて言葉を吐きたくない。


「う、うぅぅぅ」

自分の意志の弱さ、はっきり言えない情けなさ。

何もかも嫌になって、消えてしまいたい。


そんな負の感情がマオを縛り付けて、身動き一つ取れない。

まるで自分を締め付けるように両手を肩において小さな体をさらに縮ませる。


誰も来るな、と言わんばかりに泣きじゃくるマオを見たシュウは、

「――マオ」

彼の名前を優しく告げて、その震える体を抱きしめた。


「やっぱりマオは、可愛いな」

サラサラで美しい髪をなでながら、シュンは優しく抱き寄せる。

涙を流すマオが落ち着きを取り戻すまで、何度も、何度も頭を撫でて「大丈夫」と語り掛けた。


「――ッ、うぅ……」

理性も感情も言うこともが利かず、ただ目の前にいる勇者に対して貪欲に求めてしまう。

一回りも大きな体にしがみつくように体を寄せ合い、暖かな人肌に触れる。



しばらくするとマオの涙は止まり、鼻をすする音だけが聞こえてきた折に、勇者シュンはとある提案をした。


「――なぁマオ、二人で旅をしないか?」

優しく抱きしめる手をそっと離し、シュンは語り始める。


「この世界のどこかに、同性同士でも子を授かれる秘術があるらしい」

「……なんですかそれ、そんなのあるわけないじゃないですか」

鼻をすすり、枯れた声で何とか声を出すと、シュウは嬉しそうにその言葉に反応をする。


「いいや、きっとある! 煙の立たぬところになんとやらだ。絶対あるに違いない!」


まるで子供の絵空事のように楽し気に語り出す。

馬鹿馬鹿しく信じられない彼の話は、まるで子守歌の様な心地よさがあり、マオは思わずその言葉を聞き続ける。


「どこにあるかも分からないし、見つかる保証も、今は無い」


でも、と。

勇者シュウはハッキリとそう言い、マオを瞳を見つめた。


「マオ、俺はお前を諦めない。二人ならどんな困難でも乗り越えていける」

先ほどまでふざけていたような態度とは一変、彼……勇者シュンは柔らかな表情でマオを見据える。


「ついてきてくれるか?」

力強く、そして頼もしい声色のまま、彼は右手を差し出した。

傷だらけで、でこぼこと歪な形をした大きな右手はまるで光がともされたように眩しく、希望が具現化したような錯覚に陥る。


この光景を、マオを何度も見てきた。


魔王討伐の為に旅を始めたあの日も。

旅の途中に仲間が犠牲になったあの時も。

眼前に広がる無数の魔物に襲われたあの瞬間も。


彼は変わらずマオに手を差し伸べて、いつだって導いてくれた。


「シュン……」


――断らなければいけない

――それが世界の為なのだから

――この手を、取ってはいけない


けれど、マオはその手を取ってしまった。

頭では理解しているし、間違った選択なのは分かっている。


それでも、本当は想っている気持ちに抗えず、シュンの提案を承諾した。


「――卑怯です、シュンは」

「何が卑怯なんだよ」

「だって、君が手を差し伸べたら、僕は断れないの知ってるでしょ?」

「へへ、マオはやっぱり俺の事好きなんだな」

「す、好きとかじゃないです! ただ、その、えっと……」


目がギョロギョロと泳ぎ、マオは耳の先まで赤くして照れてしまっている。

体もモジモジとくねらせては、シュウの顔すら直視できずに地面に向かって俯いてしまう。

しかし、握られた手を放すものかと言わんばかりにしっかりと握りこんでいる。


そんなマオに対し、シュウは屈託のない笑顔を見せつける。


「よし! じゃあ今すぐ出発だ!」

「え……えぇ!? 今すぐですか!?」

「当たり前だろ、国王にバレたらなんて言われるか」

「ちょ、待ってくださいって!」

「そんなこと言って。お前口では否定するわりに、手を離さないじゃないか」

「ん、ん~~~~!!!」

悶絶をするように唸るマオを引っ張りながら、二人は満点の星が照らす夜道を駆けだした。


勇者シュウと賢者マオは新たな旅路を行く。

今度の旅は、二人の子を宿すという前代未聞の旅だ。

これから先、彼らに色んな試練が降りかかる。

しかし、二人はどんな逆境も乗り越えていけるであろう。


その旅の果てにあるとされる、二人だけの幸せを手にするその時まで、彼らは立ち止まる事はないのだから。

男の娘がヒロインの作品、お楽しみ頂けたでしょうか。

現在男の娘がヒロインの長編小説を順次連載中です!

是非そちらもよろしくお願いします!


また、宜しければブックマーク、★評価等をお願い致します!

作者のモチベーションにつながります!


少しでも伝われ、男の娘の魅力...!

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