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コテージを出て、登って来た坂道を降りていく。集合場所に着くと時間前にもかかわらず既に長蛇の列だ。その最後尾に並ぶ。並んだ後もその後ろにもあっという間に列が連なる。このイベントだけのためにここへやって来る人たちも大勢いる様だ。係員から蛍観賞についての諸注意が行われる。そして、時間となり会場へ移動する。
夕刻の薄明りの中を大集団がぞろぞろ歩く。ほどなく蛍の観賞スポットに到着する。小さな小川にかけられた木の橋を渡ると水田の様な草むらが広がる。その真ん中のぬかるんだあぜ道から蛍を鑑賞することが出来る様だ。暗い上に足元が悪い。組長はペコのすぐ後ろをマークするように付いて歩く。女性であるペコが滑ってよろけようものなら、すぐに体を支えてやろうという気遣いからなのだろう。しかし、女性はペコだけではないのだが…。
草むらの中に点在する光は幻想的で心躍らせる。
ここでは源氏蛍も平家蛍もどちらも生息しているのだけれど、今見られるのは平家蛍なのだそうだ。
イベントが始まってしばらくの間はおとなしくしていた蛍も次第に活発に活動し始める。すると無数の光りが夜空に向かって舞い上がる。
「わぁ、すご~い。蛍って、あんなに高くまで飛ぶんですね」
このイベントを楽しみにしていたペコは感激して思わず声をあげる。
時間になるとあぜ道から出なくてはならない。このイベントを楽しみに集まってきた人たちはまだたくさん居るのだから。草むらに別れを告げあぜ道を引き上げる。その頃にはもうすっかり日も暮れて真っ暗で足元さえ見えなくなっていた。最後の木の橋を渡るとき、それまでずっとペコの後ろにコバンザメの様に張り付いていた組長がスッとペコの前に出る。そして、スッと手を差し伸べる。それから、久美にも同じように手を差し伸べてやる。こういうさりげない優しさはいいのだけれど、たまに度が過ぎる行動もするものだから、日下部も彼には信用が置けない。
舞い上がった蛍たちに誘われるようにペコは山間への坂道を登っていく。みんなもそれに続く。イベント会場がどこからどこまでなのかははっきりしない。帰りはどうするのか。みんな揃って来た道を戻るのか…。そんなことを気にしていたのだけれど、どうやらこのまま自由解散の様な感じだ。このイベントは有料のイベントなのだけれど、集合場所に集まらずに直接ここへやってきても判らないのではないかと思う。
先にやはりこの坂道に誘い込まれた人たちがしばらくすると坂の上から戻って来る。どうやら、その先へは行けないらしい。ペコたちも取り敢えず、行けるところまで行ってみることにした。すると、そこにはバリケードが置かれていた。ただ。その先はもうコテージへと向かう坂道の途中だった。
「なんだ! ここから降りて行けばタダで蛍が見られたんじゃないか」
「そうかも知れないけれど、これはお金を払っただけの価値はあるよ。そのお金がここを維持していくのに必要なものなんだろうから」
「そうですね」
「じゃあ、ボクたちはこのままここからコテージへ戻ろうか」
「はい。そうしましょう」