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この旅行会で最初に訪れたのが鴨川だった。その時、行きは旅行会社の顔馴染みが車でホテルまで送ってくれた。帰りは最寄りの安房小湊駅から外房線で帰京し、錦糸町で下車して反省会を行ったのだけれど、その時の電車は東京駅の地下ホームに入る電車だったはずだ。そのイメージがずっとあって今回も外房へ行く電車は東京駅の地下ホームからだと思い込んでいた。
それはもう11年前のことだ。考えてみれば、それからもう11年も経つのだ。
「そうだよね。昔はそうだったよね」
組長もその時のイメージが残っていたので、日下部からの連絡で乗車は地下ホームだからということに何の違和感も覚えなかった。他のメンバーはそんなことなど気にもしていなかったに違いないが。
9時ちょうどに東京駅を出た電車は予定通り10時54分に安房鴨川駅に到着した。ここからは木更津行の急行バスで移動する。バスの時刻までは40分ほどある。そこで、組長とペコと小松がコテージでの部屋飲み用の買い出しに出た。その三人が戻って来るとほどなくバスが到着した。バスは海辺の町から山への道を順調にひた走る。ほぼ予定通りに目的地『ロマンの森共和国』に到着した。
バス停からは急な坂道を歩いて登る。受付でいくつかの手続きをしなければならない日下部は他のメンバーを気にすることもなく坂道を歩いて行く。毎度お馴染みのキャリーバッグを転がしながらのこの坂は久美にとっては辛いに違いないと思いながらも。膝に爆弾を抱えた組長も然り。すると小松が久美の荷物を引き受けた。そう、小松はそういうところには気の回る男だ。このメンバーで日下部が最も頼りにしているのは実は組長よりも小松の方なのだ。
受付につくと日下部は早速入園と宿泊の手続きと旅行支援に伴う地域限定クーポンの受け取りを行った。クーポンは電子クーポンなので、その手の操作に手慣れたペコに頼んだ。受付を終えると先ずは一休み。日下部と古谷は早速、喫煙所へ向かう。
「さて、最初に何をするか…。先ずはパターゴルフかな! 場所もすぐそこだし」
「そうだね」
「じゃあ、ホールアウトした打数が一番少ない人が優勝ね。優勝者には組長がバウムクーヘンを買ってくれるそうだからね」
旅行前の段階のグループLINEでのやり取りで二日目の予定に組み込まれている“カモガワバウム”での買い物にバウムクーヘン大好きのペコの「絶対に行きたい!」というコメントを受けて日下部がこれまでの積立金の残金を使うことでこの優勝賞品を提案した。それに反応して組長がペコにだけは自腹で買ってやると言い出したので、日下部はペコにだけ特別扱いはダメだと釘を刺した。別に自腹で買ってやること自体が悪いことではないのだけれど、グループLINEでのやり取りとしては他のメンバーに対する配慮が欠けている。もっとも、コースにここを組み入れたのも、そもそもロマンの森共和国を選んだのも日下部がペコのために組み入れたものではあったのだけれど。それとこれとではまた意味合いが違う。
「やった!」
そして、そのバウムクーヘンに反応したペコがこのパターゴルフで予想外の実力を発揮することになる。