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その年の忘年会の席。新たなプランを携えて次の旅行の行き先を決める。
「個人的には松本プランかな。ただ、松本は好きな街だから、どうせ行くなら皆でダラダラ回るより一人で好きなように回りたいんだ」
日下部が自分が推すプランを言う。
「五蔵めぐりには惹かれるけれど、私はやっぱり蛍が見たい」
ペコは自分のプランを推す。
「組長のリクエストは箱根だったよね」
「でも、このコースだと移動手段が多くて時間の管理が大変だよね。俺もペコちゃんのプランでいいと思うよ」
組長がそう言ったことで一気にペコのプランに傾いた。もともと日下部と組長とペコ以外は自分の意見を主張しない者の集まりだ。そして、あっさりペコのプランで決まった。日下部にしてみれば組長がペコのプランには反対しないことも織り込み済で計算通りの結果だった。
『ロマンの森共和国』は6人用のコテージに宿泊する。園内では色んなアクティビティが体験出来て、それらが無料で楽しめる1DAYパスポート付きのプランだ。食事もコテージで季節の鍋とオードブルが出る。部屋飲みには最適だ。そして、なんといっても最大のイベントが“ホタル観賞の夕べ”。日下部がペコのために見つけたプランだ。あとは当日に雨が降らないことを願うばかりだ。
6月24日。日下部は上野駅で弁当を買いたいというペコと待ち合わせをした。本来秋葉原経由で東京駅まで行くはずの日下部がわざわざ東京を通り越して上野まで来たのは上野から東京までの短い間だけでも二人だけで居られることが特別なことだったから。
東京駅。二人が到着したのとほぼ同時に全員揃った。集合時間にはまだ余裕があった。けれど、そのままホームへ移動することにした。早く動けばその分余裕が生まれる。電車は地下ホームから発車する予定だ…。ところが地下ホームに降りるエスカレーターの前にある時刻表に目当ての電車が見当たらない。
「あれ? 乗る電車が居ない…。」
「こっちじゃなくて京葉線のホームだって!」
小松が近くの窓口で駅員に聞いてきた。これはこの旅で一番のファインプレーだった。一同は改めて今度は京葉線のホームへ向かう。早めに移動したことで多少慌てたものの無事に予定の電車に乗り込んだ。