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「さっきの雨で諦めちゃった」
5年前、金沢に行ったときペコが言った言葉が今も日下部の脳裏にくすぶっていた。
昨年の函館旅行が終わるとペコの中では、もう旅行に行くのは終わりにしたい…。そんな気持ちが膨らんでいた。それは以前から思っていたことなのだけれど、美子が仲間から離れていった頃からだんだん大きくなっていた。
「今度の旅行を最後にしたい」
ペコは日下部にLINEで伝えた。
「ボクもそろそろいいかな…と思っていた」
日下部も定年退職したこともあり一区切りつけたいと考えていたのでそう返信した。。
函館旅行の帰り、古谷が「年も年なので旅行は今年までにしたい…」と申し出た。「そんなことは気にしなくてもいいよ…」組長はそうなだめた。小松も旅行から帰った後で日下部を飲みに誘ってその席で「自分も旅行はもういいかな…と思っている」そう告白した。6人のうち4人が旅行を辞めたいと考えている。あとの二人、組長と久美は自分たち以外の者がそんな風に考えているなどとは夢にも思っていないだろう。旅行は永遠に続くのだと思っているはずだ。そんな中で次の旅行企画が動き始める。恐らくそれが最後の旅行になるはずだ・…。
会社のデスクでパソコンに向き合う日下部。
『関東近郊で蛍が見られる場所』を検索している。
「さっきの雨で諦めちゃった」
5年前に金沢でペコが言った言葉。金沢城を流れる小川で蛍が見られると聞いたペコはそれを楽しみにしていた。けれど、夕方から降り出した雨で蛍を諦めざるを得なかった。ペコにとって最後の旅行になるのなら、ペコに蛍を見せてやりたい。日下部はそんな思いで蛍が見られる場所が無いか調べていた。
「おっ! ここは…」
ペコの休日に日下部はランチに誘われた。ペコの自宅そばに「寿司居酒屋が出来たので言ってみませんか」と。久し振りに二人でランチを楽しんだ。
「お茶でも飲みますか?」
ランチを終えて日下部はペコをお茶に誘った。
「時間はいいんですか?」
仕事中に都合をつけて来てくれた日下部をペコは気遣う。
「大丈夫だから誘っているんです」
そもそも、日下部は食事をOKした時点で時間などどうにでもなるように都合をつけている。二人は近くのチェーン店に入る。そこで、次の旅行のことが話題になる。その時点で日下部からはグループLINEにいくつかのプランが挙げられていた。
「この五蔵めぐりはいいですね」
諏訪の酒蔵巡りのプランにペコは興味を示した。そこで日下部は切り出した。
「こういうのがあるんだけど、どう?」
スマートフォンを取り出して、その画面を見せる。
「それ! それでいい! というか、もうそれ以外は考えられない」
「では、このプランを姫から提案してください。今度、みんなで集まるときまでにプランの詳細をまとめておきますから」
「でも、他の人はどうかしら?」
「大丈夫ですよ。きっとこれに決まります」