表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹どり  作者: 有里明
3/3

芸能デビュー?!(違う)

 「私と一緒に世界を目指しませんか?」


 ・・・どうしてこうなった?  僕が聞きたいくらいだ。


 僕はただ幕張まで友達と漫才を見に来ていただけなのに、なんで芸能事務所に誘われているんだろう。そう、()()に。お笑いじゃないの?普通。

 今日の服装は、まぁ普通よりはちゃんとしたものにしたし、高校生になったから慣れないネックレスとかしてみて大分トレンドは意識できてる・・・はず。でもそこまで、のはずなんだけどな。顔はよくて中の中で、醸し出すオーラなんて「私普通です」っていうオーラだし。髪型だって、そこらへんに歩く人と大差ない、ほんとによく居る一般人Aなんだが。何を見られたんだ?


 「―――はり、私の事務所にあなたに入ってほしい」


 わぁお、今までずっと話してたのか。びっくり。

 友達なんて、考え事であんまり話を聞く気がない僕と、なんかわからない芸能事務所の人を交互に見て気がめいってる顔をしている。あ、今一瞬早くしてくれって顔しやがった。

 言いたいことは痛いほどわかるけど…。


 「一応分かったと言えば分かったのかもしれないんですけど、それでも色々と疑問とか親の確認とか・・・。それに、ここだけで簡単に信じられるほど教育が行き届いてないわけでもないので、一旦内容を持ち帰る形にしてもらってもいいですか?」


 大分やんわりとあなたの事務所に入る気はないし、あくまで詐欺的な勧誘でしょう?という意味を匂わせたから簡単にあきらめてくれるかな。名刺は初めにもらって確認したけど、さすがに業界最大手とか言われてる事務所の名前を使うのはよくないと思うんだよね。まぁちゃんと確認したらどっかに一つ点が増えてるとかそういうしょうもない偽装がされていることだろう。


 そう思ってたんだけど・・・


 「確かにそうですよね! こっち側としても、そう簡単にほいほいとついてこられるとその先の芸能生活に不安が残ってしまうので、ぜひそうしてください。お友達との時間を使ってもらいありがとうございました」


 なんか思ってた以上に簡単に引き下がってくれた。

 「まさかの本物…?」とか友達が言ってるけど、正直気にしたら負けだと思うようにする。これは気にしたら負けだ――うん。親に任せよう。


 え、てか本当にバッグ片づけて帰ろうとしてるってか、今「ありがとうございました~」とか言って去っていったんだけど、なんだったんだろう。



 「悩んでも仕方ねーし、そろそろ入場時間も来るだろ? とりま今日はあそぼーぜ」


 あぁお前はそういうやつだよなぁとか思うけど、


 「おう!」








*************






 ・・・・・・・・・・単純に気まずい。なんなら家族会議で囲むテーブルの中心に置かれてる名刺がその負のオーラを発しているんじゃないかなって錯覚するくらい、このパンドラをどうしようかと両親が四苦八苦している。


 何が問題かって言うと、どこからどう見たって本物にしか見えない事務所の名前と、今僕が持つスマホに表示されてるプロデューサーの写真と、名刺の名前・一応許可をもらって撮った写真が完璧に一致していたことだった。


 正直冗談で親に報告したはずだったのに、とは思ってる。いやまぁ…遊びが楽しかったからその時の感覚を全然覚えてなかった、とかそういう訳じゃないし、たぶん。

 でもこれが本当だったとして、なんであんなにキラキラした人たちがたくさんいる東京の中の一角で、さらにそこからキラキラしてない僕なんかを見つけ出すってのはどういうことなんだ?…キラキラしてないから逆に見つけやすいとかはなしで・・・。


 長い沈黙を破ったのは父の考えのまとめだった。


 「・・・ここに、有名プロダクションのプロデューサーの名刺がある。つまり、お前の前に芸能の道が広がったわけだ。特にこの人は意味のないスカウトをしないことで有名だ。実際に会って話してみないことには変わりないけれど、もしお前が興味あって、やる気もあるなら、この道は全然ありだと思う」


 やはり父は強しってことなのかな。考え込まれた言葉の重みが違う。

 でも、僕が本当にこの道に進みたいのか、たぶんそこが一番大事って思ってくれてる。


 正直、自分がどうしたいのかは全然わからない。芸能なんて今までの人生で一回も考えたことが無い道だし、だからそこにかける熱意も今は存在しない。いや、本当に昔に少しだけ考えたことがあるっけ。

―――――

 『ねぇお父さん!みんながみんな誰かわからない!』

 『そりゃそうさ。みんながみんな、自分じゃない何かを作ろうとして頑張ってんだからな』

 『自分じゃない自分?全部自分じゃないの?』

 『さぁそりゃあどうだろうな。将来自分で考えて確かめてみればいい』

―――――

人の生き方を考えて、そこに何を僕が作れるのか確かめるなら、今だ。

別に何か問題があるわけじゃない。ただ、本当に僕が生きていけるのか、そこは不安だ。


でも、チャンスだ。変われるチャンス。



数分また沈黙が続いた。そして僕は答えを出した。


「僕は、僕はやってみたい」


「じゃあ行くしかないな」


「え?!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ