44、狙われたニコル−2
それは突然に起きた。
「お嬢様! 大変です!」
「どうしたの?」
セルティスとイチャラブ新婚生活を満喫しているとけたたましい声でハルクが入ってきた。
アシェリはセルティスの膝の上で抱きついたまま離れない。
楓は奥ゆかしい日本人だから 他人に見られるって慣れないけど、貴族はぶっちゃけ起床の時、目覚めていても侍女が起こしに来るまでベッドで寝て待つ、声をかけられて初めて起き上がる。 2人で寝ている時も軽く声をかけて「入るな」と止められない限りは、あからさまにエッチの後の裸で抱き合って寝ていても、こそっと入ってくる。そっとガウンを用意し、旦那様の方は全裸にガウンを羽織ってバスルームへゴー。奥様の方は侍女にガウンを羽織らせられ、隣りのつづき部屋の別のバスルームへゴー。
(メインルームであればの話。大抵は広くて大きい部屋を後に夫婦のメインルームとするので最初はその部屋に男性が入り廊下に出ずとも隣の部屋に行けるように専用扉がある、その先が女性の部屋となっている事が多い)勿論、同じバスルームで汗を流すと言われればそのようにする。
公爵家ともなると小さい時から見られているせいか、ジュディオ◯グさんの魅せられてみたいに全裸全開でも気にしない。(だってそうしないと拭けないし洗えない、お風呂なんて××の場所も侍女が丁寧に洗ってくれる。羞恥心は金庫の中に閉まって臨むべし)
ぶっちゃけ、はっちゃけエッチしてお汚ししたとしても、ガウンを羽織りメイドたちに新しいシーツにチェンジなんてこともある。男の人は全裸、これも普通。
だから主人たちが夫婦の場合はベッドで裸で抱き合ってても、座っていても『私は家具!』って感じで完全スルーを決め込むのだ。目の前で盛り上がり始めると黒子のようにスススといつの間にか退出している。
だからアシェリちゃんがセルティスの胸で甘えていても誰も二度見したりガン見したりしなーい。主人のすることに口出ししなーい、それが普通だから。
まあ今回は普通に服着ていたけどね!
「何があったの?」
「国内の薬屋セレニテが襲撃され店に置いてあった薬などが全て持ち去られています!」
「何ですって!? 警備の者がいた筈だけどどうなっているの? 怪我人はいるの?」
「警備の者たちは全員怪我をしております。中には店を壊して侵入する犯人と揉み合い大怪我を負っている者まで…。申し訳ありません!!」
「ニコルには連絡した?」
「連絡は既に行っていると思います。念の為こちらからも人は送りました」
「犯人に繋がる痕跡はあるか?」
「正直分かりません、店の中を急ぎ片付け手がかりを見つけようとしたものの滅茶苦茶すぎて犯人の者か何なのか分かりません、憲兵を呼んで捜査はして貰っています。ですが…この国の者ではないかも知れないと、犯人を捕まえられないかも知れないとの事です」
「まさかムージマハル国か!?」
「まだ分かりません、引き続き情報が入り次第お伝えします」
「ねえ、怪我している方が多いのよね?」
「アーシェ行くつもり? 危険ではない? 罠かも知れないよ?」
「でも私たちの大切な仲間だわ」
「ふぅ、カンナ アーシェを変装させてくれる? なるべく少年で目立たないように」
「畏まりました」
「では私も着替えてくる」
「セルティも一緒に行くの?」
「当然だよ、1人で行かせるわけにいかない」
「…セルティは寝込んでいることになっているから、セルティも変装しなくちゃね。
そうだ、グレン 出来れば怪我した人だけ1箇所に集められないかしら?」
「……では 憲兵の聴取が終わった者から集会所に行くよう手筈を整えておきます」
「有難う、お願いね」
変装して店を見に行くと、様々なものが粉々に壊されている。
ここに人が転がったと思われる血の跡があちらこちらにある。アシェリは唇を引き結びセルティスの服を掴む。
酷いわ! どうしてこんな!
薬の棚はご丁寧に一つ一つ叩き落とされ壁には穴が開き、薬の類は一つも残っていない。落とされた棚も足跡が無数について無残な跡が残っている。店の奥に進んでいくとカウンターにも魔法か魔道具で破壊した跡や、棍棒のようなもので叩き壊した跡が見てとれた。奥の倉庫にもズカズカ人が踏み入った跡があり根こそぎ商品は持って行かれた。ここにも大量の出血の跡がある。商品を奪われまいと警備の者が頑張ってくれたのだろう…。視線を彷徨わせ息を呑んだ…夥しい血の跡に血溜まり、もしや命の危機があるのではないか!?
カタカタ震えるアシェリの肩をさする。
「大丈夫?」
コクリと頷く。
確認すると店を後にして、怪我人を集めてある集会所を訪れた。
ハルクもグレンも変装している、なるべくアシェリを目立たないようにアシェリはグレンの従者のように振る舞う、ハルクとセルティスは気配を消して潜んでいる。
怪我人が所狭しと寝かされている。
直視するのが辛い……、ニコルの報告では皆がやる気を持って仕事に臨んでくれているという。よく見れば警備に立つものだけではなく店で働く者も多くいた。申し訳なくて涙が溢れる。
一際目を引く一角があった、釣られるように寝ている患者たちの間を縫って歩いていくとそこにいたのは、ニコルの右腕と呼べる人物 ヘリオス・バートンらしかった。
らしいと言うのは瞼は腫れ上がり眼球がほとんど見えず、顔の片側は包帯でぐるぐる巻きになっていた。辛うじて露出している腫れ上がる顔も赤や黒や紫や青や黄で目を伏せたくなる姿、だがトレードマークの赤髪のモヒカンが包帯の間から所々出ている、恐らく間違いないだろう。静かに近づいていくと一層痛ましい怪我だった。
アシェリは声を漏らさないように必死で堪えた。
自分のような者を引き上げてくれたニコルに大恩があると、風貌に似合わず真面目に仕事をこなしていた。アシェリの海外拠点なども実際に下見に行ってくれたのは、このヘリオスだろう。アシェリは自分の無力さと甘さを痛感し胸の前で拳を握っていた。
そしてフツフツと湧き上がる怒り。
誰? 目的は? 絶対に許さない!!
「う゛う゛ぅ゛ぅぅ」
うめき声を上げるヘリオスにグレンが話しかける。
「おい、しっかりしろ! 大丈夫か!!」
口の中も切れて腫れて上手く話せないようだ。
アシェリは自重も躊躇もなくエリアヒールでここにいる怪我人を全員魔法で治してしまった。
神の奇跡の前に皆なにが起きたか分からず、自分の手をグーパーグーパーしながら確かめているが、まだ誰も声を発さなかった。
そしてやっと聞こえたのは、ヘリオスの声だった。
「ルイス! ルイスの旦那はどこだ!?」
「あなたはヘリオス殿ですね? ルイスとはルイス・レーベンの事ですよね、彼がどうかしたのですか?」
「おい、ルイスの旦那は無事なのかよ!!」
「無事とはどう言う意味ですか? ルイスとはルイス・レーベンの事なのですよね? 彼は店が襲撃を受けていると報告を受けて急ぎ店を見に行ったと思いますが?」
「えっ? おおおい、あんた! 頼みがある! 急ぎルイスの旦那を保護してやってくれ!! ルイスの旦那が危ないんだ!!」
「ちょっとヘリオス殿 ルイスが危ないとはどう言う事ですか?」
「アイツら、アイツらはセレニテの代表を探してやがった!! 恐らく拷問して聞いたみてーで 『ルイス・レーベンはどこだ!』って…。それに!『こんなモノあるから思ったようにいかねーんだ!』ってうちの薬を踏みつけて『バカヤロー、後で高く売りつけるんだから無駄にすんじゃねー!』って薬も持ってった。ルイスの旦那が薬の製造者なら生きていられるだろうが、もし売っているだけなら探し出して殺されるかも知れねー! 早く! 見つけて助けてやってくれよ!!」
グッと握り拳を作って息をゆっくり吐いた。そうしなければ怒りを爆発させてしまいそうだったから。
「分かりました、すぐに探しに行ってきます。皆さんお大事じに」
恐らくルイス・レーベン(ニコル)は敵に捕まったと思われた。
「ニコルはどうなってるの?」
「襲撃の報告を聞いて確認に行きました」
「連絡は? 所在は分かってる?」
「いえ、今回襲撃された店舗にはいませんでした、襲撃のあった店舗を見て回っていると思われますが…、そこを狙われて可能性は否定出来ません」
急いで人目のないところまで来た。周りにはノークたちが見張っている、そこへ結界も張る。
「相手は見張っていた筈だ、ルイス・レーベンが戻ってくるのを。つまりはニコルは敵の手に今はあると言う事だ」
「ああ、間違いないだろう」
急に皆黙り込んでいるアシェリを息を呑んで見ている。
体の周りに白い発光体がフツフツを湧き上がりアシェリを囲んでいる。ひとつあたり8cm程度の球体が新たに生まれた球体と結合し倍の大きさに膨らんでいく、それはまるで生き物のように蠢いている。アシェリの怒りに呼応するかのように次々生まれていく。
すると腰についていたチャームであるシリウスが勝手に実体化してきた。シリウスについては知らない者もいたので更に言葉を失った。
シリウスは25歳位の青年へと変貌した。色素のない風貌で全体的に金色で光り輝いている、人外の神々しいまでの存在感に自然と跪き首を垂れる、アシェリとセルティス以外は。
「ふっ、アシェリ落ち着け、私に何を望む?」
「シリウス、ニコルを探したいの。力を貸して」
「いいよ」
目を閉じて深く息を吸った。
「見つけたぞ」
「ニコルは無事!?」
「んーーー、怪我は酷いな。男が1人2人…8人ほどいるか、『お前がルイスだな?薬を作っている者はお前か?別の者か?』と執拗に聞いているがニコルは何も話さない、苛立った者たちが更に殴る蹴る暴行を加えてる」
「シリウス、ニコルの所へ連れて行って!」
「いいよ」
口が弧を描く。
「シリウス、我々も一緒に連れて行ってくれ!」
「んーーー、別にいいけどぉ、私がアシェリを傷つけさせることなどないよ?」
アシェリを心配する事がシリウスの琴線に触れる。
「違う! アシェリを側に置いておかないと私が不安なんだ!」
「んー、仕方ないか! アシェリも側にいる事を望んでいるみたいだから」
「有難うシリウス!」
何でセルティス様もこんなとんでもない存在に普通に話せるんだよ…おかしいだろ。
だけど誰も口を挟まなかった。
「じゃあ、アシェリとセルティスでいいかな?」
「いえ、私も連れて行ってください! アシェリ様の手足となり働きます!」
「私も! アシェリ様を煩わせるモノを全て私が始末します!」
「俺らもお願いします! そいつらのアジトを探したりお嬢様の必要な情報を取ってきます!」
この短時間でシリウスに対する言い方を勉強したアシェリのお供たち。
「あー、そうだね。じゃあ一緒に行こっか。行くよ!」
ここはとある山中、山小屋から少し離れたところ。
「あそこにいる」
「有難うシリウス」
そう言うとアシェリは自分に結界と隠密魔法で姿を消した。
「アシェリ! 何を考えているの!? 1人で行くなんて許可出来ない! 一緒に行くから! シリウス! 頼む私たちにも魔法を! 共に連れて行ってくれ!!」
だが、アシェリは既に1人で歩き出していた。
外に見張りの人間が四方に立っていた。
アシェリは結界魔法で彼らを囲いその中の空気を抜いた。
男たちは突如 呼吸が出来なくなりもがき苦しむが声は外には漏れない。膝をつき転がるがまだ生きて入る、すぐに人工呼吸をすれば助かるだろう。
山小屋の中では外でドサッと言う音がして、一気に警戒をする。
「おい! 何があったんだ!?」
声をかけるも誰も答えない、いや答えたとしても声が伝わることはない。
「おい、お前様子を見てこい」
剣に手をかけ窓から周囲を窺うが誰も見当たらない。警戒しながらよーく周囲を見回すが変化はない!?
「見張りの奴らが倒れてる!」
「何だって!?」
1人はニコルに剣を首元に当て他の3名で外の様子を見に行く。
だが何もない、倒れている者たちもただ棒のように横たわるだけで外傷も何もない、顔色は悪く唇は紫色になっている。
「おい! しっかりしろ! おい!!」
「おい! チャド! どうしたんだ!!」
「おい! 敵はいるのか!? 」
「いや、誰もいない。ただ見張りのやつらが倒れてる、外傷もない!」
「毒か!? 薬か!?」
慌ててニコルに刃物を当てている者は口を覆った。
「いや、そんな様子もない!」
「寝ているのか?」
「いや……まだ生きてるぅ?」
辛うじて生きているように見えていた仲間は目の前で口から泡を噴いて目を向いて死んだ。
問いかけにも口をパクパクさせているだけで何も聞こえない。それが止まり同じように他の者も死んでいく。得体の知れない恐怖に「ひっ!」側にいた者も悲鳴をあげた。
ルイスに刃物を当てている男はルイスを引き摺りながら小屋の外へ出てきた。
「おい、どっかで見てんだろう? いいのか? サッサと出てこい!コイツぶっ殺すぞ!! おい! おい!いいのか?本当に殺るぞ!どっかから見てんだろう? いいのか、コイツが死ぬぞ? 出て来い!!」
ルイスの首根っこを掴み、自身の刃物を振り回しながら威嚇する。
「分かった、魔法だろう? 俺には魔法なんて通用しねーんだよ!!」
そう言うと呪文を唱えながら魔法陣を展開させた。




