32、タンタンタタターン
「そう言えばお嬢様、例のものが漸く完成したそうですね」
「ええ、今日はそれを見に行こうと思っていたの。うふふ 楽しみだわぁ〜!!
でも薬草園を先に見に行くわ、暗くなるとよく見えないから」
「お供しましょうか?」
「ニコルったら…忙しいのでしょう? 大丈夫よ?」
「ええまあ。でも薬草園も例のところも把握しておく必要があるのでやはり一緒に参ります」
「お嬢様、ニコル様はどこへでも一緒に行きたくて仕方ないのです、諦めた方がいいですよ」
「もう、過保護なんだから。では皆で参りましょう。では変装してくるわね、カンナお願い」
「はい、では参りましょう」
商売絡みでアシェリの動向を気にする者は多い、よってアシェリが屋敷に戻ると関係者がゾロゾロついて歩く。今やアシェリは金の卵を産むガチョウなのだ。今 手がけていることが次に何になるのかワクワクが止まらない。アシェリの稀有な才能にみんな夢中なのだ。それをアシェリは過保護だと勘違いしている。
変装は身の安全と言う意味では護衛もいるし結界もあるから問題はない。ただ アシェリが取り扱う商品は誰も真似できないものが多く、ガーランド公爵家周りにはあちこちに密偵が潜んでいる。これで全ての発案者がアシェリと知られればまたアシェリの付加価値が爆上がりし危険になるので情報を漏らさないように注意している。それは取引先についても同じだ。アシェリの正体を知っていて隠すのと知らずにいるのとでは全然違う。取引先を危険に晒さないためにもアシェリが直接話すのではなく、代理人を必ず立てている、必要な措置なのだ。
全員が平民服に身を包み変装する、アシェリも少年の格好だ。だけどアシェリを守るように囲めば怪しまれるので、歳の近いハルクと一緒に歩き少し離れて後ろにグレン、アシェリたちの前にニコルがいる。外では偽名を使う。
アシェリ→シェル
ハルク→ルーク
グレン→レン
ニコル→バール (ニコル・アンバーだから)
ニコルは色々偽名を使っているのでこうなった、まあ、聞く人間が聞けばバレバレだ。
「今度は何を作るつもりなの?」
「今ある薬関係のラインナップは、鉱物の解毒剤、痛み止め、ポーション各種なんだけど…、他にはね平民向けに種類を増やしたいんだよね。例えば農作業する民に1番困っているのは『痛み』これは病気と言うより経年劣化と言うか職業病と言うか、腰や足や腕や肩の凝りや痛みがあるの。だから利益はないけどそれらを解消してあげたいなって、これはそんなに手間や知識がなくても作れるからいずれ似たもので民が代用して行ってもいいと思っているの。
あったらいいな、を形にしてあげたらもっと仕事がしやすいでしょう?」
「へぇー、金にもならない事するなんてシェルは変わってるな。
でもシェルらしい、困っている人を放っておけないところが…いいところだな」
「へへ、ありがと」
この後行くところにも関連があるけど、欲しいものはまだまだある。
目下1番今研究しているのがデスクライト!
この世界暗いのよん! 天井にLEDドーン!ってピカピカって訳にいかない。まあ我が家は金持ちだから天井に魔道具の大型ライト、テーブルに小型の魔道具ライトがある、だけどベッドに寝転がって好きな本読みたいじゃない! 腕が疲れて形変えてダラダラ過ごす…最高っしょ。ああ、私を堕落させるクッションも欲しいな。その為には、床に座る文化を作らなければならんか…。
でも今の状態では決まった場所に置く事しか出来ないから、影ができる。影が濃い! 元の明かりが薄暗いので目が悪くなるっす! この世界にはコンタクトレンズなんてないから改善したい。私はいつまでも愛する世界を愛でたいのだ!!
だから こうフレキシブルに動く…燃えないのがいい!
今のは原始的なものでも魔道具でも基本、何かを燃やして灯りや暖をとる。でもそれだと寝落ちしたらいつか火事を起こす、だから出来ればうっかり寝落ちしても燃えないやつ、それを求む!
最初 この世界にいる夜光虫を捕まえてガラスの筒に押し込めてみた。まあ、多少の灯りは取れた…だけど冷静になると虫のお尻がずっとこっちを向いているわけでそれに気づくとなかなかシュール、それに当然生き物ですから出るものも出るわけで…ぐぷっ。と言うことで別の手段を模索中。
それと石鹸、メチルアルコール、エチルアルコール、アルコールランプ、酒も作ってみた。
色々と設備投資も必要だったけど、今までの蓄えつまり自分のお金でなんとかなっちゃった。
最初は大量の怪我人、病人がでた場合に何が必要?と考えていた中で、ふと泡石鹸懐かしいなって思ったんだけど、えっ?そもそも石鹸なくない?って気がついてフローラルとローズとシトラスの香りの石鹸を作った。泡石鹸はポンプ部分を作るのが難しくて(プラスチックとか塩化ビニールとかないしね)、まずは固形石鹸を世に出した。
メチルアルコールはランプを作りたくて作ってみたけど…冬場はいいけど夏場はキツい!
そしてお金がかかる、メチルアルコールの補充が必要になるし危険だから…大失敗。
でもパパンは面白がってた。本当なら家の敷地に張り巡らせても良かったんだけど、悪用されればうちは火の海になってしまうのでコレは要再検討。
エチルアルコールは消毒だよね。
でもこれも庶民には手が出せないし危ないしで世には出せなかった。
まあ、その中で出来上がったのが『酒』…くふふふふ。
この世界の酒といえばワイン。でも楓の世界では酒の種類は豊富だし…天然酵母でパン!
これも夢じゃない!! パンよ、パン!! この世界にはオーブンがある訳じゃないし、エアコンがある訳じゃないから、何しろ品質が季節によってまちまち。夏はふっくら冬はカチカチ…イヤイヤイヤイヤ こんなのパンじゃない!!
I Love サンドイッチ!!
硬めのバケットにスープを浸して食す。パンの使い道はそれだけじゃないのだ!!
片手で本をめくり、汚すのは残った片手で済ます。ジャパニーズおにぎりのように食事を片手間で! 本から目を離さずに済む最高の豪華メシ。ピクニックで色とりどりのサンドイッチを食べさせ合いっこ、そして食事だけではなくデザートにもなる優れもの。
んでもって酒がその過程で一緒に思いついちゃって、興が乗っちゃって、悪ふざけが過ぎちゃって…、色々やらかした。アシェリちゃんまだ15歳なのに。完全におばちゃんの趣味&味で作った。
うちの敷地にある木を使って樽も作った。だって、ウィスキーと言ったら樽で熟成させるものじゃないの!? どうせなら美味い方がいいじゃん!?
大体手間暇かけて作ったものを10年寝かせるなんてこの時代やってたら、皆飢え死にしちゃう訳っすよ、初期費用で倒産だ。だからそんな馬鹿みたいなことは出来ない。金も場所も必要だから。でも私は両方持ってるし出来ちゃうんだから仕方ないよね?
でも流石に代わりに何かで収益を上げなければいけない。しかも酒を作っているのに売らないとか言うと怪しまれるし頭がおかしいと思われるからね。他にも出来たものをバンバン売る。
まずはビールよビール! 炭酸コーラァが出来たんですもの、出来るよね?
はい キターーー!
温いビールはイタダケナーイ、皆さんは少々温いビールだが我が家はガッツリ私の持つチートスキル使って冷蔵庫もどき作りましたとも! 流石にサーバーは作れないのでガラス瓶に密閉して冷やす。
お父様やお母様、お兄様にセルティスのあの最初の炭酸の刺激に驚いた顔! それから苦味のある刺激に顔を顰めておかしいったら、それにキンキンに冷えた飲み物も初めてで二度見どころか、何度も手元のグラスに目をやる…クスクス うふふふ ハマれ ハマれー!
お母様は好みじゃないって言うかと思ったけど、案外イケる口だった。調子に乗ってグイグイ飲んでトイレ大渋滞、あははは どこの世界でも一緒ね!
ハマれ! ハマれー!! どっぷり 堕落…ちゃう、呑兵衛の世界へいらっしゃ〜い。
まあ、ウィスキー、スコッチ、ウォッカ、ジン、焼酎、ビール、アクアビット、ブランデー、テキーラ、ラム、色々試しに作ってみた。日本酒も作りたかったけど、米がなかった…、でもどこかにあるはずと世界各地を探し回り似たものを見つけたので今 仕込んでる。これも楽しみ。カルーアミルク作って見たいと思った、女性ウケはいいだろうな、と。
だけどまだコーヒー豆がなくて…チェ。
でもカカオは見つけてチョコレートを執念で作ったのだ、だからきっとどこかにコーヒーもあると! 植物図鑑も駆使して探した結果…なんと! 私の国外逃亡先ムージマハル国で似たものを発見! ニコルが持ち帰ってくれた。焙煎して飲んだら、ヒャッホーーーイ! コーヒー豆だ! って事でどのくらい輸入できるか、もし出来れば株をこちらに持ってきて栽培してもいい、だって我が家は広大で土地はここだけじゃないし、何だったらスタッド家の領地でもいい。あー楽しみ。
はっ! すごい食いしん坊してる。
おかしいなぁ〜、今まで食にあまり興味なかったはずなのに…?
まあ、自分が悠々自適に生きていくための手段もお金も選択肢も多い方がいい、だけどなんでこんな事 私知ってたのかなぁ〜?
あ゛――――、あれか? 研究室の酒好きの先輩が研究室の片隅で密造酒を作って遊んでいる人がいた。深夜も時間ごとに記録をとらなければならない、睡魔に負けないためのお遊びだったが、色々叩き込まれた。あの人は酒マニアだった。
あの時は『この人病んでる』って思って聞き流してたけど、こうして役に立つなんてね。無駄じゃなかった、あの人の汚い字を書き起こすの大変だったけど 出会って良かったっす。
という事で、お酒を提供できる場所…作ろうかな?
でも紳士クラブとかだと女性はいけないからなー、そうだ! 我が家の息のかかる家とかの夜会に出張サービスで酒の提供させて貰おう! それの窓口をドースン商会にすればいいか!! ヤホーイ! パパンとママンに強請ればすぐに広まる事だろう うしし。
おっと妄想爆発。
薬草園で湿布薬と下痢止め、吐き気どめ、解熱剤の元になりそうなものを適当に見繕って送ってもらえるよう手配する。それから植物図鑑見つけた植物を手配したので育てるよう指示し後にする。
そして本日の目的地!
そうついに完成したのだい!
パイル地 機織り? タオル製造機!! ドンドンドンパフパフ!
またもこの肌触りを再現するためにチート使わせていただきました!! だってだってふんわりふかふか体験をもう一度! バスローブもない。いや前世でも使っちゃーいなかったけど、こちらはアシェリちゃん姫さまだから侍女たちに洗ってもらって、侍女たちの前でオールヌードゥ それを3人がかりでまあ手拭い?みたいな薄い布で拭いてもらうの。勿論ビチョビチョだからすぐnextタオルよ、今のアシェリ15歳 身長 160cm 体重 41kg バスト83cm(流石悪役令嬢 理不尽なまでにナイスバデー)ウエスト54cm ヒップ80cm それなのに1回の入浴で使うタオル(布)を10枚くらい使う。髪も長いしね! それ全部洗うんですよね? 大変すぎる。ああ、早くパイル地タオルを広めたい!
まあタンタンタターンよりシュコージャッジャッジャシュコーって感じかな?
ああ、また夢への一歩!
そしてついでに作ったのが包帯の布を作る機械と包帯巻き機。
ガーゼも包帯もたくさん作っている。これはある程度ストックがないと有事の際に困るので土地もたくさんあるので出来た分だけ買い上げてストックしている。
今までは包帯を人に手で巻いていた。引っ張りながらキツめに巻いていかなければ綺麗に巻けない。だけど正直人の手でベタベタ触ったモノは雑菌がたくさんついている。だからちょっと改善したいなって思っていた。だから手動だけどぐるぐる巻けるようにした、これで作業効率も上がったし、雑菌がつくのもだいぶ減らせたと思う。良き良き
そうこれも勿論 グッズも視野に入れてのことだ。
でも今の技術では糸の色を変えて織り込むのは難しい。だからパイル地に部分的に布に描いたえを縫い合わせ使うことにした。コンピューターはないし、刺繍にすると量産出来ないし重いしね。
これはサンプルを作り予約販売する事にした。
その際に『私は◯◯のタオルが欲しい』と言う要望にも応えた。それとは別にパイル地タオルの発売もドースン商会で始めた。予想通り馬鹿売れし、製造が間に合わず予約販売は8ヶ月先までいっぱいになった。
そして次なる野望は『へ・や・ぎぃー!』部屋着っしょ! タオルの肌触りもだが、部屋でドレスとかめちゃくちゃ疲れる。ベッドの上でだらーんとしたいじゃん! 偶に体の疲労を体を動かして解消させたい。足と腰を上げて自転車漕いだりしたい!でもドレスだとベローンと丸見え、で・も! ズボンであれば心配なーし! マイクロファイバーは無理だけどパイル地のゆったり部屋着を作った。まあ、コレは趣味と言うか自分のために作ったから売れなくてもいいけどね、と言うゆるーい気持ち 金持ちの道楽で作った。
だが、予想に反して爆売れ、それは漫画に出てきたので興味があったらしい。
着てみるとあら不思議、パイル地部屋着の虜になった。こうして貴族の間だけではなく裕福な平民の間でもパイル地が大流行、オタクには通じるものがあるんだね、良き良き。
多岐にわたる事業を展開しその都度増えるスタッフ、人員の選定はドースンやニコルに任せている。
アシェリはシェル少年の格好で偶に面接を覗いたりしているが、あくまでも使用人の体をとる。ここでも身分などは伏せているため、相手の死角に入りニコルたちに指示をしている。本当は直接話をしたいし お友達にもなりたいけど、万が一アシェリとバレた時は、色んな人を危険に晒してしまうため本名も性別も明かせない。
自宅に戻ると創作活動の前にストーリーのおさらい。
消毒薬も随分出来てた、包帯も万全、固定の添え木もガーゼもある。この後のイベントのために用意していたモノだ。戦争が起きるのだ、ムージマハル国とセンダラーハン国の間で。
センダラーハン国はスターチス国とは反対側にあるのでこの国に影響はない。
今回の戦争はムージマハル国内で誘拐事件が多発しており、拐われた人間は密かにセンダラーハン国へ連れ去られ奴隷にされている事が分かるのだ。
センダラーハン国は奴隷制度がある、自国の民を強制労働に就かせるのは一部で反発もある、そこで だったら他所で捕まえてくれば解決、とばかりに隣国ムージマハル国で見繕うようになったのだ。国境警備も見回りもしているのだが、犯罪組織がかなりの数横行しており、捕まえても捕まえても後を立たない。国境付近で小競り合いが起きそれが国家間の戦争へと発展するのだ。
ムージマハル国から来たあの2人もガーランド公爵家に近づきたいと思惑の一つは、有事の際の支援を頼むために良好な関係を作りたかったのもある。
ムージマハル国から支援要請を受け、物資の支援をすることになる。ガーランド公爵家からは薬や治療に必要なものを支援するのだ。まあ、漫画の中では財力に物を言わせて手配するだけだったけどね。
あーあ、学園生活はボッチだなぁ〜。
私はもう一度経験しているからいいけどアシェリちゃんには可哀想だなぁ〜。でも、下手に偽トモ作ると断罪の際の証言者になるから難しくてなぁ〜。
セルティス君も卒業しちゃうとますます……孤独。
ま いっか! その分皆と仕事してられるから!!
………おかしい…、悠々自適生活するために頑張っているが 最早 仕事中毒。
アシェリちゃんが『貴族の令嬢あるまじき』生活送っているのは私のせいだー。ごめんなさいアシェリちゃん、ごめんなさいバーバラちゃん。
………そうだ! タングストン侯爵家に遊びに行こう!