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2、再転生  …その後

ある日の午後 王宮の庭園でお母様と私は王妃陛下に呼ばれてお茶会をしていた。

私はガーランド公爵家の令嬢 アシェリ 3歳。

お母様は王妃陛下とお友達みたいで仲良くお話しをしている…はぁ、長い!

3歳児の胆力を舐めないでほしい、周りくどい言い回しで何言っているか全然わからないし、ニコニコするにも表情筋がそろそろ言う事を聞いてくれない。もう走り出すかもしれない5秒前って感じ。周りの人間の人間観察も流石にネタ切れ、はぁぁぁぁぁ。

あーーー、飽きたーーー。

いつだったかお母様に

「お母しゃまごゆっくりお話ちちていいからわたちは1人であしょんでてもいい?」

と聞いたことがあった。

お母様はニッコリ笑って(イヤ 目が笑ってない、寧ろ怒気を感じた)

「お茶会にずっとお座りしていることもお勉強です。それが出来ないなら、出来るようになるまでお母様とお茶会ツアーに出ましょうね?」

と圧をかけられたことがある。そんな地獄は勘弁だ。毎日お茶会に行くくらいなら、この1日を乗り切って見せる!!そう決意した、すると言葉も不思議とはっきりし出した。自覚って人を成長させるんだね。


「アシェリはまだ3歳と言うのにしっかりしていて偉いのね」

「お褒めいただき光栄ですわ王妃陛下。ですが、まだまだ殿下たちのように辛抱強くはなく 先日もお茶会の時1人でお庭を見たいなんて言って…やはり子供です」

「あら、当たり前だわ。この子たちも今日はよく辛抱している方です。子供には退屈ですものね。そうだわ、アシェリ お花は好き?」

「はい、王妃陛下。お花を見ていると心が和みます、それに香りもうっとりしてしまいます、それに香りに誘われてやってくる虫や鳥たちを見るのも楽しいです」

うん、教わった通り百点満点の模範解答。

「ふふ、可愛らしいわね」

「つまんない答え」

「こら、アレクシス そんな物言いをしてはなりません」

「はい、王妃陛下 申し訳ありませんでした」


「わたくしはもう少しアマランド子爵夫人とお話ししているので貴方たちが温室を案内してあげなさい」

アシェリはパッと顔を輝かせた。

「「はい、王妃陛下 行って参ります」」

(アマランド子爵とはガーランド公爵家が所有する爵位の1つ、アシェリの父ディヴィットが正式にガーランド公爵を譲爵されるまで名乗っている爵位だ)


スターチス国の第1王子 アレクシス 5歳と第2王子 パトロシス4歳の3人で向かうことになった。勿論、侍女や護衛を引き連れて。

事件はすぐに起きた。

「おい、ブス! お前みたいなブスが着飾ってもちっとも可愛くないんだよ!」

「これは何だ? 話すブタか? ブヒーブヒー 煩いったらありゃしない あははは」

アシェリは公爵令嬢だ、周りからは蝶よ花よと傅かれて生きてきて、褒められこそすれ貶された事は今まで一度もなかった。しかも常に可愛い可愛いと言われブスなどと間違っても言われたことがない。それが自分を馬鹿にするために吐かれた暴言であることはすぐに分かった。だけど、どうして今日初めて会った王子たちに悪意を向けられるかが分からなかった。

心に重たい影が落ちて息をするのが苦しい。

「ヒックヒック」

「あーあ、泣いちゃった。つまんねーの! だから女は嫌いなんだよ!」

「ブタは泣く時もピッグピッグって泣くんだな!」

「あはははは! 本当だなウケるー!」

立ち止まってドレス握って堪えようとしたが、涙は溢れて止まらず呼吸が苦しくなった。


「殿下たち、いくらなんでもあんまりな態度ですよ!それがこの国の王子たる態度ですか! アシェリお嬢様 殿下たちに代わり謝罪申し上げます」

「はっ? なに勝手に謝罪してんだよ! たかが教育係の分際で偉そうに言ってんじゃない! お前なんかすぐにクビに出来るんだからな!」

「そーだ、そーだ! いちいち煩いんだよ!」

「残念ですが私は殿下たちに雇われているのではなく国王陛下に雇って頂いているのです。私の進退は殿下ではなく国王陛下がお決めになります」

「お嬢様! お嬢様!!」


その声にアシェリを見ると呼吸できずに唇は紫色へ変わり顔色を失ってきていた。

「そこの方、急ぎアマランド子爵夫人にお知らせください! 王宮医官にも連絡をするように!」

「は、はい!」

「おい、ふざけるな! そんな事したらまた説教食らうじゃないか! 大体お前も大袈裟なんだよ!」

そう言うとパトロシス王子はアシェリを突き飛ばした。

アシェリの体は簡単に吹っ飛び地面に体を打ちつけた。

「「きゃーーーーーー!!」」

それをアマランド子爵夫人と王妃陛下も来て見ていた。

「なにをしているのだ!! その2人を捕らえよ! 牢につなげ!!」

「お母様何を言ってるの! イヤだよ!! 大した事ないくせに大袈裟なんだよ! ねえ牢に繋ぐって冗談だよね?」

「お母様 許して! もう悪い事はしませんから!!」

訴え虚しく2人の王子は兵に捕らえられ連行されていった。


「アシェリ! アシェリ! しっかりして! 返事をして頂戴!!」

だが意識は戻らず、王宮の1室へ連れて行き治療が施された。

幸いにもアシェリは過呼吸になって脳震盪を起こしただけだった。回復魔法を施され体に問題は無くなったが、目覚めたアシェリはひどく人を怖がるようになってしまった。


国王陛下と王妃陛下はことの次第を護衛や侍女、教育係のトマス・パムロから聞いて、正式に王子たちから謝罪させると言ったが、アシェリがガタガタと震えまた過呼吸になるので、謝罪は受けずにそのまま王宮を後にした。


それからと言うものアシェリは人が変わってしまった。

髪で顔を隠し、鏡を見ると泣いて暴れるため、部屋の鏡などは全て撤去され部屋に閉じこもるようになった。使用人も決まった者としか接しない、明るい天使のようなアシェリは失われてしまったのだ。




王子たちはお仕置きに3日間牢屋の中で過ごした。

最初は泣いて悪態をついていたが、1日目の夜 暗くなる頃から妙に静かになった。

「あの女のせいだ!」と騒いでいたがずっと牢に中に別々に放置されていると、他人のことより自分のことで精一杯になってきた。

「兄上 そこにいる?」

「ああ、パトロもいるか?」

「怖いよぉ〜」

「きっともうすぐ出してくれるさ、もう少しの辛抱だ」

2人で声をかけながら必死に耐えた。


教育係のトマス・パムロはいい機会だと考えた。

そこで 『殿下たちは自分たちの身分から何をしても許されると思っている節があるので、悪いことをすれば誰であっても罪に見合う罰が与えられると身をもって知っていただきましょう』と進言し 了承された形だ。

王妃陛下は心を鬼にして耐えた。

過去の例もある、我儘を増長させ最悪の事態は避けなければならないと思ったからだ。


質素な食事に狭い牢屋に灯りもない生活が相当堪えた。

『私を誰だと思っている! この国の王子だぞ!』何度叫んでも何の意味もなかった。牢から誰も出してくれない。相手にしてくれる者もいない。王子扱いしてくれる人間は誰もいなかった。


牢に入って1日目に国王である父が会いにきた。

アレクシスとパトロシスはそれぞれがこの処置は不当だと訴えた。

そして自分たちはアシェリを少しからかっただけだ、アイツが生意気だからちょっと突き飛ばしただけで大したことはしていない。それに教育係のトマス・パムロが生意気だからクビにしてほしいと訴えた。

それに対する解答は、2人が思っていたものとは違っていた。


「今この国に必要なのは無知で生意気なお前たちではない、トマス・パムロのような良識ある者だ、お前たちより役に立つ。アシェリ・ガーランドがお前たちに何をした? 年下の弱き少女を寄ってたかって謂れのないことで馬鹿にし貶め暴力まで振るった……。お前たちは無知で粗暴で王子たる素養もない。

私はお前たちに失望した。


このままお前たちが態度を改めないようであれば、王位継承権を剥奪する、その身分に足る者と判断できない場合は、廃籍とする。これは今回の件だけではない、お前たちの行動は常に報告されてきたのだ、それを鑑みての結果だ。何も言わない者が何も考えてない訳ではない、お前たちは常に見られ評価されているのだ。

お前たちから王子と言う身分を取り去ったら何が残るかな? 誰が側にいるだろうか?


公爵令嬢に対する無礼に対する罰状は、1番重ければ家の取り潰しもある、身分剥奪で平民となる場合もある、それから鉱山での強制労働、鞭打ちなど…お前たちの罰はいったいどれが妥当だろうか? お前たちならどう裁く?

ふぅ、お前たちはそれだけのことをしたのだ、それを心に刻みなさい」


2人は父親の言葉があまりに重くて悪態をつく元気もなかった。父親の顔は父親のそれではなく国王としての顔を見せていた。

そして父親である国王は息子たちを牢に留め置いたまま帰って行った。それを黙って見送ることしかできなかった。無様に泣き縋っても事態は変わらないと理解した。


自分たちの置かれた状況に絶望した。自分たちが王子でなくなる日がやってくる?

そしてまた暫くするとは母上が来た。


母上も既に父上の話を聞いたようだった。父上の話を聞くまでは、早くここから出して欲しいと母上に頼むつもりだったが…、今は頼む気にならなかった。

母上はただ過去に起きた事件の話をした。過去に実在の王子が恋に溺れ婚約者を嵌め婚約破棄し、自分の恋を実らせた。だが因果応報その2人の末路は幸せとはいかなかった。王子は身分を剥奪された、…父上の話は脅しではないのだ。

その王子は許可も得ず、王家が決めた婚約を勝手に破棄し新たな婚約者として男爵令嬢を公の場で紹介した。幸せな第一歩を踏み出したはずが、全てを知った国王に王子と男爵令嬢は共に身分を剥奪され平民となった。

男爵令嬢の方は元は平民だった為 逞しく生きていたが、王子はそうはいかなかった。

この世界の頂点にいた人物、それが底辺にいきなり落ちたのだ。何かを自分1人でやった事もない、着替えだって侍女任せだった。汗水垂らして働いたこともない、何かをしてもらうことが当たり前、それ故 元男爵令嬢が飯屋で働いて帰ってきても命令ばかりする王子、一日中働いても大した金にもならないが必死な彼女にそれぽっちの金と罵った。こんな不味いものは食べられないと食事を残した、こんな肌触りの悪い服なら着ない方がマシだと言った。狭い部屋で体が疲れる、部屋の掃除をしろ、甘いものが食べたい、水が不味くて腹を下した もっとマシな水を買ってこいと言った。ベッドの寝心地が悪いからベッドを他人にやった、新しい物を買ってこいと言った。君の用意する食事は口に入れるのに勇気がいると言った。

王宮で受けていた待遇とは比べようもなかった。元男爵令嬢は生きる為に今を見つめ必死に働いたが、王子は失ってしまったモノばかりを見つめた。結果 理不尽にも憤りを元男爵令嬢にぶつけた。最終的に元男爵令嬢は王子に見切りをつけて家を出て行ってしまった。王子はそうなってもまだ失われた手にしていたモノを見つめ続けた、と言う話をした。

2人の王子はえずきながらしゃくり上げていた。


恐ろしい話だった、王子でも道を踏み外せば身分を剥奪されると言うことをこの時初めて理解した。この国の王子は何をしても許されると思っていた。血族を守るために最終的には何をしても許されると思っていた。

王族でなくなれば一人で生きていくこともできない…平民にも劣る存在だということも怖かった。

人に世話される事が当たり前とは、人に世話して貰わなければ1人では何もできないと言うことだった。

この身分は絶対的に保証されるものではない、それだけは小さくても理解できた。

そして今 自分たちはその道を踏み外し、この場所に囚われているという事が現実として受け止めざるをえなかった。父上は確かに王位継承権剥奪だけでなく身分剥奪をも口にしていた…、見捨てられる事もあると知った。


残り2日は憑き物が落ちたかのように大人しくなり、牢屋の中で其々が自分自身を見つめた。

トマス・パムロが牢屋を訪れ話をしても悪態もつかずにキチンと話を聞くようになった。そして3日目に牢屋から出された。牢屋から出ると昔の悪鬼の姿は無くなり泣きながら許しを乞い謝罪の言葉を口にした。確かに今回のお仕置きは効果があったようだ。王子と言う立場から罰を与えられるのは常に相手だと思っていた。それが今回自分たちも例外ではないと身を持って知ったのだ。牢から出てきた2人は、正しく王族たる王子に生まれ変わっていた。…たぶん。




ガーランド公爵家に王家から正式に謝罪のため王子たちが来訪する旨の書簡が届いた。

だがその旨を伝えるとアシェリはひどく怯え泣いて暴れた、よって来訪は丁重にお断りした。

両親は変わってしまったアシェリを好きなようにさせることしか出来なかった。いつか心が落ち着けば元のみんなの天使のアシェリに戻ると信じて待つことにした。

しかししばらく経ってもアシェリの様子は変わらなかった。そこで少しずつアシェリを同年代の男の子に慣らせることを考えた。丁度 心たりがあったのでその男の子をアシェリに従者つけることにした。当然 最初は部屋に入ることすらままならなかった、だが今はやっと部屋に入っても叫ばれなくなった。


アシェリは公爵令嬢、兄がいるものの貴族に生まれた娘として貴族同士の結婚は義務。

このまま引き篭もりの生活を続ける事は出来ない、本来は王族との結婚も出来る立場、家のためになる結婚をしなければならない。あの事件が起きるまでは何の問題もなかったのだ、アシェリにリハビリさせ社会復帰を目指すしかなかった。




アシェリ・ガーランドはまたも頭を打ってアシェリではない記憶を呼び覚ました。


あ、あれ!? 私何してたんだっけ?

あっ! 痛い!! あー頭が痛いって、あれれ 前にも覚えが……。

そうだ、私は永山楓だ! 27歳の喪女&オタクだ。いや、あまり威張るものでもないが…。

それで…紙袋が破れて 拾おうとして死んだ、うん そうそう。

転生したと思ったら死んだ。

そうだ、バーバラ・タングストン侯爵令嬢 17歳に転移して…死んだ。今度はどうなった?

目を閉じて寝ていると聞こえるのは『アシェリ!』と呼びかけられるという事は、私はアシェリなのだろう。オタクの情報を目一杯フル稼働 !ピコン! 2作思いつくけど、今のところ濃厚なのは『スターチスの秘宝 アリランの愛』と同じ制作会社が作った話だ。

それが『スターチスの聖女 マリアの献身』 同じ制作会社のためスターチス国の設定はほぼ同じ、その悪役令嬢がアシェリ・ガーランドだった。


「アマランド子爵夫人、少し休まれては?」


はい、確定! もう一つは友人設定だったから、出来ればそっちが良かった。今世こそ平穏無事が良かったのに。


何でだよー! バーバラちゃん悪役令嬢だったけど悪いことしてないのに殺された、たった17歳で死んじゃったんだよ? また転生したっていうのに また! またも悪役令嬢!? 酷くない? ねえ酷いよね? また断罪されて死んじゃうわけ!? 

えーーーーー、ありえないでしょう! 可哀想じゃなーい 私 永山楓が! バーバラちゃんじゃないけど、私だって殺されるほど悪いことしてないよねー? 

はぁぁぁぁ、今度も殺されるのかな? やだなぁ〜、結末ありきの人生。 

あっ! でも今なら断罪は何とか免れるかな!? 今回はまだ間に合うよね! 

よし! 今までのオタク因子をフルスロットルで生き残ってみせる! 

バーバラちゃん、アシェリちゃん頑張ろうね!!

脳内会議を繰り広げていた。

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[一言] 「はい、王妃陛下。お花を見ていると心が和みます、それに香りもうっとりしてしまいます、それに香りに誘われてやってくる虫や鳥たちを見るのも楽しいです」 「うん、教わった通り百点満点の模範解答。「…
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