13、ご学友選定会
アレクシス王子殿下がもうすぐ貴族学園に入学するにあたり、アレクシス王子殿下の側近として殿下の側に侍る人材を選定するためのものだ。
元より良家の令息が集められていた、その中で家柄や性格や容姿など篩い落とされていく。
年齢は特に規定がないので 殿下の側近になりたい者たち、親の期待を背負う者たち、思惑は様々だが出世の大チャンスでもあるから皆やる気に満ちている。
一部を除いて。
ステファン・ガーランド公爵家令息もセルティス・スタッド伯爵家令息も呼ばれている。ステファンは公爵家の仕事があるので当然辞退する、だが体裁上招集に応じただけだ。セルティスは正直迷っている…アシェリの目標である王子との婚約阻止の為には王子の行動の把握と計画阻止が重要だ。接触を阻むためにも学友入りするか…。
(めっちゃ自信過剰の上から目線)
顔ぶれをチェックする。
アシェリの漫画にあった通りの人物たちがここに集結している。
セルティスは以前読んだあの漫画の通りになったらと思うと不安で仕方ない。
この日は 学術、剣術、魔術など様々なテストを受けた。貴族学園よりよっぽど細い検査という名の選別だ。
「ステファンは選ばれても加わらないだろう?」
「ああ、まあね。生徒会も断ったし、正直余裕がないからね。セルはどうするの?」
「んー、悩んでるんだ。私は継ぐべきものがないでしょう? だから学園を卒業したらどこかに勤めなければならないからね。アシェリのことを考えると関わりになりたくないけど、箔付けにはいいかな?と思ってる」
「まあ そうだな。いい経験になるかもしれないからね。まあ、どこもパッとしなければうちにいれば良いよ」
自分たちが選ばれないと思っていない人がここにも、お兄ちゃんも自信家ね。
まずは学術テストが行われた。
5科目、スターチス語国語、古代語、算術・統計学、魔術学でランキングされる。
全ての科目1位はステファンとセルティスだった。
次に実技 魔術、剣術、弓術、馬術、体術の5科目のテスト及びランクング。
こちらもステファンとセルティスの独壇場だった。その結果を踏まえて各家宛に内示が出された。そして本人と当主が王宮に呼ばれ誓約を行う、そして正式に側近となる。
後日結果発表がなされた。
選ばれたのは4名、同じ年齢と言うのも考慮された。
セルティス・スタッド ガーランド公爵家の後ろ盾
ドナルド・オースティン 魔術師団長 令息
ハワード・ヴァルト 騎士団長 令息
ヒューゴ・キンバリー 大商家 令息
家の都合で断った者は…ステファンただ1人だった。
セルティスも受けるかどうかガーランド公爵に指示を仰いだ。そこでステファンが辞退する上、同じガーランド公爵家の者が辞退したのでは 王家に叛意ありと取られかねない、とセルティスはお受けする事になった。
セルティスのスタッド伯爵家は叔父の家族が乗っ取ってしまったので、現在はガーランド公爵家が後ろ盾となっている。そこで王宮にはガーランド公爵が付き添った。
全員の顔合わせと王子殿下や国政などについて知り得たことは他言無用、秘匿の誓約をする。魔術による制約はしない、何故ならば状況により報告を必要な時に制約がかかると面倒だからだ。それはこちらにとっても好都合だった。
誓約式が終わると陛下からチクリと言われた。
「ガーランド公爵家は王家と一切の関わりを排除するつもりかと思ったよ」
「滅相もございません。お恥ずかしながら私も爵位を引き継いだばかりで息子の手を借りて何とかやっている状態でして。この通り小さい頃からステファンと共に同じように学ばせてきたセルティスは本来、アシェリの侍従にと思って育てた子なのでこちらとしては手放し難い存在ですが、王家の要請を受けてこうして参った次第です」
「ガーランド公爵! セルティスはアシェリの侍従だったのですか?」
「はい そうです殿下」
「理由を伺っても?」
「…小さい頃怖い目に遭い侍女の1人以外、人を寄せ付けなくなりました、特に同じ年頃の男の子には過剰に拒否反応を示すようになり、そこで兄妹のように仲の良かったセルティスに側にいて欲しいと頼んだのです。少しでも同じ年頃の男の子に免疫をつけさせるため。
これまで侍従としてアシェリの側に置きましたが、やはりセルティスは伯爵家の本来であれば嫡男ですので、ステファンと共に令息としての教養も身につけさせました」
「ああ、私はまたアシェリ嬢から大切なものを奪うのだな。
陛下 やはりセルティスはアシェリ嬢に返してやりましょう。私はこれ以上彼女のものを奪いたくないのです。私は未だ謝罪すら許して貰えていない」
「アレクシス、私情に囚われてはならぬ。お前はこのまま行けばこの国を背負うのだ、お前の周りに優秀な者を置いてこの国のために尽くす、それがお前の王子としての使命だ」
「左様でございます、アシェリには寂しいことかも知れませんが、セルティスにとっては才能・能力を生かし経験を積む良い機会です。いつまでもあの娘に縛り付けるのは可哀想です。セルティスにとってもアシェリにとっても自立の良い機会だと思っております」
「ふむ、そうだな。アレクシスは有効に人材を使えるように学びなさい」
「はい……、承知致しました。セルティス これから宜しく頼む」
「はい殿下、宜しくお願い申し上げます」
セルティスは綺麗な笑顔を作ってアレクシス王子殿下に挨拶をした。
セルティスにはガーランド公爵の思惑とは別に目的があった。今回アレクシス王子殿下の側近に入ったのは、アシェリの漫画には殿下の側近の中に自分はいなかったから。つまりアシェリの夢で見た物語に齟齬が出来た……これが良い結果を産めばいいと、側近入りする事にした。
今までも何度かお茶会などで顔を合わせていたが、アレクシス王子殿下がアシェリに対してどのような感情を持っているか初めて触れた気がする。5歳の時のクズのままではないらしい、そしてアシェリに多少なりとも良心の呵責はあるらしい、まあなかったら側近になった暁にはたっぷり思い知らせてやるところだ。まあ何にせよ、王宮を出入りできる権利を手に入れたのだ悪くない結果だった。
王宮からガーランド公爵と共に屋敷に戻る途中、馬車を停められた。一応警戒をして従者が話をしている様子だ。
「一体何事でしょうか?」
「さあな」
「旦那様、スタッド伯爵がお話を聞いて欲しいと来ております」
「なに!? こんな往来で何を考えているのだ! …屋敷へ来るように言いなさい」
「公爵閣下! お願いです! 甥のセレフィスに会わせてください! お願いです!」
「出しなさい」
「はっ、ここでは邪魔になります。屋敷にいらして下さい」
「公爵様、ご迷惑をお掛けし申し訳ありません」
「お前のせいではない。それにしても甥の名すら覚えてないとはな。……まあ、頃合いだろう」
「どういうことですか?」
「ん? ふぅー、スタッド伯爵家はセルティスの叔父が継いだ訳だが、相変わらずの金遣いの荒さで没落の一途を辿っている」
「えっ!? ああ、そうなんですね。なるほど…家に入り込んだ時も借金返済で何でも売り払っていましたものね」
「ふふふ その反応は気に入った。
そう、最初から少しおかしかったのだ。ケンスレットが友人の子が心配だと言って調べたが、あも叔父が引き継いだスタッド伯爵家の資産はどんどん売り払われていった。
それにね……そのセルティスの両親の事故死もーー疑問が生じた。恐らく叔父夫婦が関わっているだろう」
「えっ!? ………そうなのですね、まるで強盗殺人、簒奪者だな。実の兄夫婦を殺しスタッド伯爵家の資産を食い潰し…コガネグモみたいだ。何故 利用価値もない私に接触してくるのですか? まさか私がガーランド公爵家にお世話になっているから金を引き出させようと? 或いは王子殿下の側近入りの噂を聞いて?」
「んー、まあそんなところだろう。ご両親はまともだったのに叔父は随分痴れ者だな」
「私にとってはある日突然家に入り込み、部屋に閉じ込め食事を抜き弱体化させ何もかもを奪う、寄生虫でしかないのですがね」
「まあ、話を聞けば分かるだろう」
「ご迷惑をお掛けします」
「ふふ お前を息子同様に育てたのだ、これぐらいの事大した問題ではない」
「感謝致します」
客室に通されたロータス・スタッド伯爵夫妻は部屋の中の調度品に目をやった。
シックな装いだが最高級品と一目で分かる物ばかりだ。ゴクリと喉が鳴る。
そこにいるロータス・スタッドとサンドラ・スタッドはひどく不似合いだった。朝焼けの中の取り残された闇よりも異物感が漂う。それは身に付けているものが安物の衣服や装飾品と言ったことではない、やはりどこか異質だった。2人の目はギョロギョロと動きこの部屋の中にあるものを値踏みしているようだった。通された部屋にこの家の使用人が立っていなければ1つ2つポケットに入れていたに違いない。涎でも垂らしそうなほどねっとりとした目で見つめている。恐らくこの一つの壺で幾らになるか計算しているのだろう。品定めに夢中で遅れて来たガーランド公爵と甥のセルティスにも気づかない。その様子に唖然とする。
「お待たせしたかな?」
「あっ! いえ」
慌てて元の位置に戻り愛想良く挨拶をする。
「それで話とは何だね?」
「ええ、まあ…、ああセレティス随分立派になったのだね。小さい頃に別れて以来お前をずっと心配していたのだよ」
「…叔父上もお元気なようで、みなさんお元気でらっしゃいますか? そうだ、私には従妹がいたはずですね、名前は確かメルク 12歳になったのではないですか?」
「ああ、覚えていてくれたのだね。あの娘は良縁に恵まれてね、良い方に嫁いだのだよ」
「はっ? いつですか?」
「サンドラ いつだったかな?」
「もう、3年前になります」
「お相手はどなたですか?」
「えーっと、ゴーディック商会のゴーディック殿だ、商売をしていて裕福な家に嫁いで幸せだよ」
「因みにお相手の方の年齢は?」
「ん? 年齢? んん確か、3年前で48歳だったから…今は52?いや54だったか?」
「やだ あなたったら51歳よ」
「ああ、そうだった、51歳だよ」
「……叔母上は偶にメルクに会っているのですか?」
「セルティスったら…ふふ 女は結婚したら相手の家に染まるのが1番幸せなのよ? それに娘は嫁いだら相手の人間の家の子になるの。きっと今頃 私たちの事など思い出すこともなく幸せだと思うわ、連絡がないのがその証拠 ふふふ」
何を言っているか分からない。9歳の娘と48歳の男の結婚だって!?
目の前の叔父夫婦が何を言っているか分からない、理解したくない!!
10歳にも満たない娘を金で売ったって事だろう! あり得ない! 人間じゃない!
「それで今日は何をしにここまで来たのです?」
「ああ、公爵閣下はお忙しい方ですからね 早速用件に入りましょう。
セルティスを返して頂きたいのです。先程も申しました通り我が家の娘が嫁いでしまってスタッド伯爵家を継ぐ者がいないので、我が家に迎えようと思うのです。そこで今日はセルティスをお返し願いたいとここまで参りました」
「ほぉー、それで?」
「え、それでではありますが 我が家の宝をお貸ししていた期間の代金が頂きたいのです」
「えー、5歳から14歳までの10年間で金500枚でどうでしょう? 難しかったらどこかの領地を頂くのでも構いませんが…うふふ 如何でしょう?」
「公爵様 申し訳ありません。あまりの厚顔無恥さに言葉もありません、お許しください」
「セルティス お前のせいではない、気にしなくていい」
「お、お前 流石に金500枚は言い過ぎだよ、ねえ公爵閣下 なら480枚ではどうです? それが駄目なら468枚! これ以上は負けられません!」
「ふぅ〜、セルティス」
「はい」
「お前はあの夫婦に他に2人の子供がいるのを知っているか?」
「えっ!? 9歳の娘の下に2人? ですが先程もう家を継ぐ者は子供はいないと…?」
「そうだ、もういない。2歳の息子は貴族の養子として売った。そしてその次に生まれてきた息子も1歳で売ったのだ。お前たちはもう子供ができないからセルティスを引き取りに来たのか? お前たちのような親を持った子供たちが憐れだな」
「な、何を仰っているのか…」
「ハーヴェル」
「はい、こちらになります」
「お前たちはスタッド伯爵家を継ぐ者が必要だと言ったか? 何を継ぐと言うのだ?
これはね これまでにお前たちが借金を重ね売り払った土地や権利、子供たちの詳細だよ。
ああ、それとおかしいと思って調べた事がある。
これはお前たちが魔法印を偽造して作った爵位贈与及び継承の書類だ。お前はスタッド伯爵位を譲渡されていない、つまりスタッド伯爵はここにいるセルティスと言う事だ」
「何を言うのです! 言いがかりだ! 偽造?知らん知らん な、何を証拠に!!」
これにはセルティスも目を見開いた。