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10、アシェリ12歳 バーバラの邂逅−2

忙しいタングストン侯爵と兄だが、2人はアシェリとの時間を大切にしてくれた。今日は兄だけだが、失った時間を取り戻すように、時間を作ってくれていた。

「お兄様、わたくしの部屋って今はどうなっていますの?」

「ああ、あの時のままだよ、私たちが生きている間はそのままにしておきたかったのだ」

「お兄様、昔みたいに手を繋いで欲しいの」

「ふふ そうだったね、いつもこうして遊んだ。でも今なら抱っこして連れて行けるよ?」

アシェリを抱き上げて移動する。

「嬉しい、でもお兄様の隠し子と思われているみたいでしてよ?」

「何!? アシェリが私の隠し子!? それでもいいけどガーランド公爵がお許しにはならないだろうな。さて、着いたよ。 ほら、何も変わっていないだろう?」


「お兄様…、お父様とお母様とお兄様に重荷を背負わせてしまいましたわね。私はさっさと死んでしまったから。お兄様は私のこととても可愛がって下さいましたから、ごめんなさい」

「ああ、とても苦しかった。私の最愛の自慢の妹だったからね。でもこうして戻ってきてくれた、何もかも報われた気がする、有難う 勇気を持ってこの家の扉を叩いてくれて」

「頭がおかしいと思われても…会いたかったのです」

「うん、有難う」


「お兄様降ろして。この部屋に来たかったのはね」

そう言うと本棚の5冊目を取り出しその本の中から鍵を取り出し、その鍵で引き出しを開けた。

「ははは、そんなところに隠してあったのか、お前らしい」

その引き出しには手紙と贈り物が入っていた。


「それは?」

「殿下との結婚は学園を卒業してからだったけど、半年後からは王宮に住まいを移すことになっていたから…。お父様、お母様、お兄様に感謝のお手紙と贈り物を用意していたの。

もう、何の役にも立たない物ばかりだけど…、一緒にね 家族の肖像画も入れてあって、王宮に持っていくつもりだったの、良かったぁ〜、これをね持って行きたかったの、いいかしら?」

「そうか…、贈り物と手紙を貰ってもいいかい?」

「ふふでも、お兄様への贈り物はあの当時 お兄様が欲しがってらっしゃった本よ? お父様には万年筆、お母様にはブローチ どれも古ぼけた物ばかりなのよ?」

「ああ、それでも構わない、バーバラからの贈り物が欲しいのだ」

「分かったわ、はい お兄様」

「時を超えて私の手元に来た、かけがえの無いない贈り物だ。有難う私のバーバラ」


「お父様は今日はいらっしゃらないのね?」

少し寂しそうに言うと

「ふふ 今日は王宮に入っているのだ。引退し 楽隠居生活を満喫すると言っていたのに、俄然やる気が出たみたいだよ? バーバラ効果だ」

「まあ、ご無理さならないといいけど…、それにまたご迷惑をお掛けしたら……」

「いや、いいのだ。私たちは少しでもお前の役に立ちたいのだ。お前が辛い思いをしていたあの頃分もね」



ある時、3人で話すうちに髪型の話題になった。

それで可愛い顔を何故隠す?と聞かれ、王子殿下と婚約したくないからだと答えた。

3歳の時にあった王子殿下たちは粗暴でウィリアムを彷彿させた。前世の記憶もあるし、出来れば王家には嫁ぎたくないと話すと、父クラウスの闘志に火がついた。バーバラを助けられなかった罪滅ぼしが出来るとばかりに老体に鞭打ち暗躍し始めた。


「私がここへ来たことでご迷惑をお掛けするのではないかと思うと自分の浅慮が情けなくなります」

「バーバラ! 何を言っているのだ! 私たちはこうしてお前と逢せてくださった神に感謝している、今 幸せだと聞いてどんなに嬉しかったか! お母様にもお前に逢わせてあげたかった…。

お前が今生を幸せに長生きする事が目標がと聞いて胸が詰まった…。何でも手にすることができるガーランド公爵家に生まれながら願うことが幸せに長生きなど、ウィリアムを八つ裂きにしてやりたい!

だが こうして再び出逢えた、私たちはお前が幸せに生きるための手助けが出来ることが有難いと思っている。

心配ない、表立って何かをしたりしないさ、それはお前を危険に晒す事だって分かっているからね。ただ、お前の王子殿下たちとは婚約したくないと言う気持ちを尊重するために、それなりに発言権を持つ努力をしているだけだ。優しいお前を煩わせることはしない、安心おし」

「ああお兄様は変わらずわたくしに甘くてらっしゃるのね。有難うお兄様…でも 今のわたくしはガーランド公爵家の令嬢です、そうあまりご心配にならないで。ただ、お会いしたかっただけなのですから」

「ああ、分かっているよ ちゅう」


笑顔が怖い、絶対何か企んでいそう。



まあ、こうしてバーバラちゃんの家族とも無事会えて、意思疎通がとれる様になった。


バーバラちゃんにとって家族と言えば タングストン侯爵家、アシェリちゃんにとっての家族はガーランド公爵家、そうなると永山楓にとっての家族はここではない遠い異世界の永山家だ。そう考えると口煩い母も懐かしく思った。

『私の事は死んだと思ってもう気にしなくていいよ!』

『はいはい良かったね、もういいじゃん! 可愛い孫も授かったんだし 私の事は諦めてよ!』

今思うと、何でもっと優しい言葉を遺せなかったんだろう。心配してくれてるって分かっていたけど煩わしかった。はぁーーー、こんな馬鹿な娘でごめん! でも 今生は頑張って生きるからね! ちょっぴり感傷的になる。



部屋でボーッとしているとセルティスがやってきた。

「アーシェ、暗い顔をしているけど何かあった?」

「セルお兄様…」

思わず手を伸ばした。セルティスはその手を取り、頬に手を当て顔を覗き込み、自分の手を伸ばし額で熱を測った。

「熱はない様だね、気にかかることでもあるの?」

私の変化によく気づく…、1番気づくのはやはりセルティスお兄様とカンナかしら? ふふ


「ただ来年はもうお兄様はいない そう思うと寂しくなったのです」

「そうだね、私もアーシェが心配でならない。今年学園に入学したステファンもとても心配していたよ? だけど私はそれよりもアーシェが入学してからの方が心配だ。ここにいる間はガーランド公爵家がアーシェを守ってくれる、でも学園ではそうはいかないだろう?

魔法訓練も他者と関わりを持つ様になる、それがとても心配だ」



そうなのだ、アシェリは10歳になるまでは屋敷に教師を呼んで魔術の制御訓練などを行なってきた。N o 王宮!を公爵家の権力を使って実行し、自宅学習に切り替えてもらったのだ。まあ、ぶっちゃけ元から制御出来ていたから、小出しにして6歳の時には完璧にしてしまった。それでも定期的な指導を受け、10歳の時に魔力測定を受けた、はいバケモン!

まあ、それでも基本は結界魔法で他の魔法は少し使えると言う程度に抑えることに成功! 勿論 全力で光魔法の回復・治癒魔法は隠した! つまり結界魔法も光魔法の一部なのだ。

光魔法の回復・治癒魔法を扱える者が聖女なり聖人と言われるわけだが、結界魔法は分かりにくい分野なので基準が確立されていない。大昔にアシェリが張ったみたいに自分に対して張る結界、他者に対して張る結界、また王宮に張る結界、国に張る結界 様々なものがあるが目に見えないので分かり辛い。それに例えば王宮に結界を張ったとしてそれをどれ位持続出来るか? ここが重要な訳だ。小さい頃のアシェリは自分に対し結界を全力ではって3時間、魔力切れで術者死亡では当てにできない、戦争ともなれば3時間で決着など出来はしないのだから。つまり自己申告が殆どだと言うことだ。

アシェリは回復・治癒魔法も使えるが、これが明らかになると聖女扱いされて、王家から逃げる事は不可能。逃げられたとしても一生王宮で飼い殺しだ。よって全力で自分の能力を隠すことに全集中! 他の魔法スキルがバレたのは隠しきれない強大な魔力が漏れてしまっただけだ。でも 回復・治癒魔法がバレなければ今回はOK! だってここでバレるとマリアちゃんの活躍の場がなくなっちゃうから! マリアちゃんの女神降臨を全力でアシストします!


おっと脱線、元に戻すと、そうなのだ。

ステファンが貴族学園に入学した。

来年にはセルティスと共にアレクシス王子や攻略対象者とマリアちゃんたちがごっそり入学する。いや その前にマリアちゃんが光魔法を発現させて女神降臨させないと入学できないじゃん! 


実はお父様からではなく、念願のアシェリ直属の諜報員をゲットした。

でも流石にアシェリにそのツテはないので そこはハルクに頼った、こっそり動いてくれる人が欲しい!とおねだりビーム! その諜報員ノークにマリアを密かに見張らせている。

それから アシェリの金蔓 おっと、生命線『ドースン商会』も大ヒットでガッポガッポ。

密かにポケットマネーでムージマハル国に屋敷を購入。

まだ拠点と言うほどの物はない、国内の数カ所と別の国には作ることができた。本当はすぐにでもムージマハル国に作りたかったが、焦って作るとバレる可能性があったため(1番メリットがなさそうなムージマハル国に最初に拠点を作るのはあからさますぎる)、情報分析ででた結果の場所に最初の拠点は作った。拠点がある先に国外追放、うんしてくれないよね?


万能薬は卸していない、代わりに傷薬のポーションを安価で取り扱っている。それでも安くて効果があるのでそれだけでも店は儲かっている。手広く商品を取り扱い尚且つ他社の追随を許さない画期的な商品は看板商品となりあっという間に国内大手の大商会となった。だから情報を得ようとよく人が送られてくるらしい。まあ、それを見越してのバスクル・ドースンだからね! 頑張って!としか言えんがすまん!


「でもセルティスお兄様は傍にいて下さいますでしょう? 貴族の娘として 王子殿下との結婚以外は耐えて見せますわ」

ニコッと笑うと、セルティスは切なそうに優しくアシェリを抱きしめた。

「私がきっと守ってみせるからね、心配しないで」

アシェリの心配とセルティスの心配は少し違うものだが、今は心地いいセルティスの胸の中に身を寄せた。



アシェリが手がけてきた事はかなり順調だ、だがまだ安心は出来ない。

何故ならば王子殿下たちはまだどなたも婚約していないから。アシェリが全力拒否しているので、不要な接触は図ってこなくなった。お茶会も王家主催のものは仕方なく出席するが 相変わらず前髪簾ヘアでステファンお兄様の腕に顔を押し付け完全シャットアウト。

以前の教訓を得て、ステファンお兄様が側にいられない時は、馬車まで戻り馬車の中でお兄様たちが戻ってくるのをじっと待つ。温室で待機とか余計な事をしたりしない!


その頃になるとアシェリのもっさりヘアーが陰で馬鹿にされていることも知っていた。

『ガーランド公爵家の令嬢ともあろう者があの髪型、汚らしいったらないわ。侍女がいない訳はないのだから、余程醜いお顔なのでしょう?』

『くすくす あれで人目を引いて殿下たちの目に留まりたいのよ!』

『ああ、高位貴族の考えることは分からないわねぇ〜、あさましい』

『地位も名誉もあるガーランド公爵家の唯一の汚点ね』


アシェリがガーランド公爵家の者でもいつも何も言い返さず兄の腕に隠れているので、容赦なく攻撃してくる。そして引っ込み思案なアシェリを叩き潰して王子殿下の婚約者の座を狙っているのだ。

だがアシェリは気にしな〜い! 中身はアラサーの根暗なオタクなんだから!

10歳前後の子供たちと仲良しこよし出来なくて落ち込むとかないから! 寧ろ張り合ってたら怖いわ! 前髪簾ヘアで引っ込み思案? 周りが煌びやかで眩しいんだよ! リアルな場違い感半端ないって!

27歳のおばちゃんが10歳前後の子供たちと真剣に男を争うって ちょっとじゃないレベルで引く。いや、違うか ハッキリ言ってアレクシスたちなどどうでもいい、こっちは命かかってんじゃーい! 近づきたくないんだって!!


『うふふ あの方 人に見せられないほど醜いのですって! その上大きな傷があるとか!』

『聞いたことあるわ! あまりに醜くて人前に出られないからお茶会も免除されてるとか…。それでも人前に出なければならないなんて お可哀想に、ねぇ』


わざと聞こえるように囁く。

ステファンの腕にグッと力が入る。それを首を振って止める。

「目立ちたくないのです。お兄様にまで恥をかかせてごめんなさい」

「だけど私は我慢できないよ、お前はこんなにも可愛いくて自慢の妹なのに」


そう聞こえないように言うと、

「殿下たちと話す機会ががよくあるが最近の令嬢は質が落ちたようだ。道理で殿下も婚約者をお決めになられない訳だ」

そう聞こえるように言うと令嬢たちの顔が強張った。そしてそそくさと逃げていった。



「お兄様が悪く言われないか心配だわ」

「大丈夫だよ、私は気にしない。それに殿下のお相手になれず節操もなく私の相手に擦り寄ってくる。あんなのが私の相手になったらそれこそ最悪だよ。だから大丈夫」


そんな感じだ。

確かに学園生活はどうなるか怖いよなぁ〜、何が怖いって強制的に王子と組まされること! どうにか接触なしの方向でお願いします!!




屋敷が何やら騒がしい。お父様の執務室へ行くと各地に散らせている諜報員の出入りが激しい。

「何かあったのですか?」

「ああ、アシェリか。 これを読んでごらん」

「はい」


ああ、やっぱり来た。

サザーランド地方 パードック侯爵領での謎の病

高熱、発疹、嘔吐、痙攣、下痢、10日ほどすると意識がなくなり2週間前後で死に至る病気と報告書にはあった。

被害はパードック侯爵領を起点に広がっているように見えた。

パードック侯爵領は未曾有の危機に瀕していた。死者が増え広がりを見せるため王宮に報告が上がるのも時間の問題。お父様は各地に諜報員を散らせているため事前に情報をキャッチしたらしい。


「恐ろしいですわね、原因は分かっていらっしゃいますの?」

「いや、分かっていない。お前は何か…知らないか?」

「…いえ。 現地はどうなっておりますの?」

「死者が増え続けている。領民が領外に逃げ出し被害が拡大している。隣接する領はバリゲートを作って出入りを禁止しているとか」

「まあ、お可哀想に……お気の毒だわ」

「……原因が分からないだけにお前も気をつけなさい」

「はい、お兄様たちは大丈夫でしょうか?」

「王都とはだいぶ離れているから問題ないだろう」

「そう、良かった」


被害に遭われた方達には申し訳ないけど、マリアちゃんが覚醒するためには必要なプロセスなの、ごめんなさい あまり酷くならないと良いのだけれど…。

アシェリはことの成り行きを見守った。

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