屋上に蜜源のお花畑を作りたい
ある時、姉妹の住むマンションの屋上にある薔薇園に、1匹の蜜蜂が飛んで来た。
明里とさやかの母は、綾子。
朝間綾子なので、友人からはマーヤと呼ばれていた。
綾子の祖父は、多才というか器用貧乏というか、多趣味の人で、還暦を迎えた頃にニホンミツバチを飼い始めた。
全国の図書館が全部そうだと限らないが、熊本の市立図書館は、読みたい本をスマホやパソコンで予約できた。
それぞれの町村の図書館と連携していて、予約した本を最寄りの図書館に集めてくれる。
返却も、熊本市内の図書館ならどこでもできる。
蔦屋書店のレンタルと同じ。
綾子の祖父は、これと思うと、関連の本をあるだけ予約して、借りてきた。
そうして、友人からの勧めに従って、半分は独学で養蜂を始めた人だった。
その祖父の影響もあって、綾子は農業の再生についての研究の職についた。
里山と呼ばれる雑木の再生と繁殖についても、花が咲き、種子をつける際に、自生するミツバチの存在の大きさを、まだ幼い頃に祖父から聞いていた。
明里とさやかがマンションの屋上にある四季咲きの薔薇園で遊ぶ中、どこからか運ばれてきた雑草の花を見つけては喜び、30kmは離れている対岸にある、放置され、野生化した蜜柑のある荒れた畑に巣を作るミツバチが1匹だけ、内湾を渡る風に運ばれて来たときのはしゃぎ様に、思わず笑みがこぼれた。
昆虫をはじめ、神さまが創造された万物は、深く関わるほどに、人に驚きと喜びを与えてくれる。
海上に建設が続くマンションや集合住宅群。
その屋上には、菜園や庭園を造営するのが主流になりつつある。
それぞれのオーナーの発想と採用された企画によって、様々なバリエーションがある。
綾子は友人の建築士と協力して、新設の建造物のデザインや設計にも関わるようになってきた。
ミツバチが採蜜の際に移動する距離は2km未満。
平均で5000匹程度の群れを養うのに必要な蜜源としてのお花畑の広さは10アールで、だいたい1000㎡。
隣接するマンションや大規模な集合住宅の屋上を蜜源となる花や低木の果樹園にできれば、食料としての蜂蜜を計画的に生産できるかもしれない。
そんな計画とイメージが湧いてくる。
遊び疲れて畳の上で眠る娘たちを見守りながら、スマホの画面に映る、仕事中の夫となにげない会話を交わしながら。
ひらめきや新しい人とのご縁も、八百万の神々の助けがあると、加速するそうです。