髪に宿る神
掲示板主。
ある都市伝説について、近頃巷で新しい都市伝説が流行っているというので、身の回りに起きた事件を交えて、この掲示板に書き込むことにした。
こんな話をきいたことはないだろうか?
ある人間の印象を左右するものの大部分は“髪の毛”“髪型”だと
平凡な顔つきの人間は身なり、ファッションで体を特徴づける。
だがその印象が、あまりにも突然ある時期に代わるというのは、周りの人間に衝撃を与えるものだが、その衝撃が全く存在しない人間もいる。つまり違和感なくその“印象の変化”を周囲が受け入れるのだ。書き手である私のそばにも、そういう友人がいた、たとえば夏が終わると印象ががらりと変わっている人間、印象が変わり、流行にめざとくなり、かっこよく、かわいくなったことで突然人気になる人間。だがそういう人は、もともと、いい素質を持っているものだ。学生時代にはそういう垢抜ける時期というのがあるのもうなずける、だがそうしたふつうの変化とは一線を画した変化があることに気が付いたのはつい最近体験した出来事をみてからだった。
しかし私の周りには近頃職場で、大人になってから本人の外見に、個性に変化がないのに、髪型がかわっただけで、そして、その垢抜けた、というより印象の変化によって、職場突然人気になるものがあらわれた。
私の上司にあたる人だ。あまりユーモアや冗談をいうタイプでもないし、寡黙に仕事をするタイプなのだが、彼が近頃髪型がボリューミーになったとおもった。
『何か、髪型をかえましたか?』
『いや別に?』
あまり聞くのも失礼に思えたのでそれ以上は聞き出せなかった。彼の髪型は本来簡単な前でわけただけの側頭部や後頭部は短めで、いわゆる典型的なサラリーマンのような髪型だ。だがそれが前頭部が少しつきでたようなアンバランスな形になったのは、ちょうど彼が職場でいけてると噂が立ち始めたころと重なる。
私は上司の変化と周囲の変化についていけず、彼の事をずっと監視していた。なぜ突然人気になったのか、私は彼の髪型の変化を、そのボリュームの変化をアンバランスだとさえおもったが、有名人ににたのか?それともそれが流行なのか?私は周囲にきくが、周囲の反応こそ奇妙なものだった。
『なんかいけてるじゃん?』
『何か?』
『うーん、あのアンバランスな感じが独特で、興味をひかれるのよね』
その後、じっくりと彼を監視し続けることが日課となり、日々の楽しみとなっていた私は、ついに、都市伝説にいわれる“動く髪”を目撃したのだ。
職場にいたのは私含め数人の社員、ある残業の、夕方から夜にかけ髪が一人でに動いているのをみた。
ゆらり、ゆらり
はじめ私は、その髪の中に人間の意思や瞳を感じた。
『本当は誰かが影であやつっているのでは?』
そう思ってぶつぶつつぶやいたがそんなことはなかった。
というのもまるで独立した意思をもつ生物のように、その周囲の人間とだれとも動きがシンクロしておらず、そしてその髪は、まるで人間がたってうごくときのように体の、髪の一部をしならせて、上司の頭の上で小躍りをしているようだった。夕方の春風になびき、踊る髪を、私はみて、何とも言えない気持ちになった。
しばらくすると。その髪は別の人間に、というか乗り移る先をさがして、みさだめたように一瞬行動をやめた。ある人間を両手で指さすとそこにむかっていままさにとびうつろうとするが、机と机、机と椅子のはざまをへだてて3メートルほどあり、彼は一度そこで思考をやめ、しばらくするとどうやらまず目の前の上司のデスクに降り立つことを決めたようだった。
『ふう』
そんな声がきこえたように、よっこらしょっと、髪の毛が動きはじめる。
“あっ”
私はなぜか心の中でさけんだ。まるで髪がシミのように平坦にみえたからというのもあるし、まるであの海洋生物のウニにそっくりな動き方をして、上司のアンバランスなかみのけをかきわけて、デスクの上にポロリとおちたからだ。
当然その一部分の髪を失った人間は、その部分のボリュームを失うのだが、違和感はなく、ただぬけおちるときの“ブチブチ”という音だけが、社内にひびいたのだが。
“??”
私は周囲を見渡すが音も、上司の変化にもだれも気づかない、シンクロする動作をするものはいない、それが聞こえたのは私だけらしい。
そのあくる日からだ。上司がもとのさえない上司にもどり、彼の髪がボリュームを失っていた。私としては今の本来の上司のほうがしっかりした印象があるのだが、ほかの従業員の反応をみるに、やはり、人気のない凡庸な人間にもどってしまった。
もしかしたらアレが見えているのは私だけかもしれない。だがもし私と同じように“生きる髪”をみている人がいたら話をきいてみたいし、ここでも、どこでもいいので、知らせてほしいとおもいこの掲示板に書き込んだ。
だれか、あれを見たことがある人はいるだろうか?
追記
例のウニのような動く髪は、その後職場のsさんにのりうつった、彼は一週間ほど人気者になったが、
その後の動く髪の行方は、私は知らない。