あれ、はーちゃんとなおちゃんって、誰かに……
都尋が身を隠した場所は、広場のはずれにある低木の茂みの中だった。ぽっかりと子どもが一人かくれるには十分なくらいの空間があり、大人にとっては狭そうではあるが、小柄な都尋であればなんとかなりそうではある。この際、服が汚れることは気にしないことにした。
――かくれんぼなんて、いつぶりだろうなあ。
遠くから響く鬼の子の声を聞きながら、枝の隙間から外を窺い見る。
燃えるような黄昏時の空に包まれた広場を。子どもたちの長く伸びた影法師を。
――あれ、いま、何時だっけ?
ふと腕時計に目を向けたものの、いつの間にか壊れてしまったらしく、秒針が動いていなかった。これではあてにならない。ならばと肩にかけていたはずの鞄を探ろうとしたが、鞄はここに来る前、公園に置いてきてしまったらしい。スマートフォンを頼ることもできなくなった。
なんでもいい。最後に見た時計は、何時を示していただろう?
――うまく記憶にピントが合わない。
ぼやぼやとしか浮かばない数分前の出来事。あの公園で見た空は、何色だったのだろうか。
闇色だった、夜だった、ような気はする。けれど、やけに自分の記憶があてにならない。
「まいったなあ……」
「みーつけたっ!」
「うわっ!」
がさり、という音とともに枝を押しのけながら叫んだ鬼の子――はーちゃんに、都尋は腰を抜かしそうになりつつも、我慢して茂みから抜け出した。
「はー、びっくりした」
「そんなにびっくりすることかなあ」
深呼吸をする都尋と、首を傾げるはーちゃん。その周囲には四人の子どもたち。その中にはなおもいる。どうやら都尋よりも先に見つかってしまったらしい。
――あれ、はーちゃんとなおちゃんって、誰かに……。
「みひろおねえさん、ごばんめだねえ」
手のひらを目一杯広げて「五」を作ったのは、なおだった。その仕草が可愛らしくて、つい都尋は考えていたことを忘れてしまう。
「あとろくにんかな? みんなどこー?」
そう言ってきょろきょろしながら再び誰かを探すはーちゃんに、ぞろぞろとついていく四人の子どもと一人の大人。その様子は、ハーメルンの笛吹きの行列を逆にしたかのようであった。
最後尾を歩く都尋は、幼子の後姿を追いかけながら、また考える。
――どうしてこんなに時間を気にしているんだろう。
――今は黄昏時なんだって、それだけでいいはずなのに。
――夜中ならまだしも、夕方の時間帯なら子どもたちが遊んでいたっておかしくはない。
――保護者はそのうち、迎えに来る約束なのかもしれないし。
――なんでなおちゃんと出会ったとき、なにかがおかしいと思ってしまったんだろう。
――思い出せない、なあ。
「さくらみっけ! これでぜんいんだね!」
はーちゃんの声で、はっと我に返る。
いつの間にやら、都尋の後ろには六人の幼子がずらりと並んでいた。気付かぬうちにかくれんぼは終わりに近づいていたらしい……というよりも、たった今、終わってしまった。
――ああ、もう一回かくれんぼ、やりたいなあ。
「つぎのおには、さいしょにみつかったみおだね!」
「あたしかあ。じゃあ、かぞえるよー?」
はーちゃんの後ろにいた子――名前はみおというらしい――が声を張り上げ、その手で目を閉ざそうとした、そのとき。
「みんな、まってえー!」
十二人の幼子たちとはまた違う、子どもの声。
その方を振り返ると、そこにいたのは。
「わたしとおねえさんも、なかまにいれてっ!」
「こ、ここどこ……?」
十三人目の幼子と、見知らぬ女性だった。