――そのひと、だあれ?
どこをどう進んだのだろう。周りの風景さえ見る余裕もなく、都尋はただ目の前にいる幼子に手を引かれるまま、徐々に見えてきた小さな光を目指す。おぼろげな明かりは、徐々に大きくなって、なおを包んで。
――急に開ける視界と、見ず知らずの世界。
「こ、ここどこ……?」
いつのまにか、なおと都尋は広々とした空間へと辿り着いていた。
「ひろばだよ、みんなここにいるんだ」
なおはそう言うが、そこは広場というよりも広い公園に近い場所で、ぐるりと周りを囲うように植えられた木や花壇、小洒落たベンチ、たくさんの遊具に、なぜか鯉が泳ぐ水槽(コンクリート製で、側面がタイルで飾り付けされている)もあった。
「いまはね、なおがかくれんぼのおにだから、みんなかくれてるの」
そう説明するなり「みんなおまたせ! これからさがすから!」と叫んだなおは、木の後ろや遊具の影を覗き込んでは「はーちゃんみっけ!」「ひろちゃん、いた!」と次々に仲間を見つけ出す。
「なおちゃん、すごいねぇ」
「かくれんぼのおに、とくいだもんねえ、なおちゃん」
「えへへ」
褒められて満更でもない様子のなお。都尋はいつの間にやら自分の周りに集まりつつあった、この場にいる子どもたちの人数を数えてみる。
――いち、に、さん……ろく、なな、はち……じゅう、じゅういち、じゅうに。なおも合わせて十二人、青いスモッグと紺色のスカートに身を包んだ幼稚園児がいる。大人は、自分以外にはいない。
どうしてこんなにいっぱい子どもがいるのだろう。どこにも保護者が見当たらないのはなぜなのか。こんな夜中に遊んでいるなんて……。
――あれ?
都尋がふと、違和感を覚えたところで幼子の一人が「ねえ」と声をあげた。
「なおちゃん、そのおねーさんは?」
「あっ、しょうかいしないと。さっきね、さみしそうだったからつれてきちゃったんだ」
たくさんのつぶらな瞳に見つめられ、都尋は慌ててしゃがみ込み、目線を合わせて「こんにちは」と笑いかけ、自己紹介。すると子どもたちは自分たちも「あたし、ひろ!」「えりこっていうんだー」「よろしくね、みひろおねえさん!」と口々に騒ぎ出す。
元気の良い甲高い声たちをなんとか右から左へ聞き流し、「ところでさ」と都尋は口を開いた。
「ここには、みんなしかいないの?」
「そうだよー」
「あたしたちだけの、ひみつのばしょだもん」
「ここにこれるのは、ここにいるだれかに『おいで』ってよばれたひとだけ」
「ここであそべるのは、さっちゃんとみっちゃんが『いいよ』っていったひとだけ、なんだって」
色々とまた疑問が降って湧いてきて、都尋は「へっ?」と間抜けな声をあげていた。
「『秘密の場所』ってどういうこと? さっちゃんとみっちゃんって誰?」
「えっとね――」
誰かがなにかを説明しようとしたところで。
ふっ、と。
騒がしいほどだった子どもたちの声が、かき消えた。
永遠におしゃべりを続けていそうだった幼子たちが、なんの前触れもなく黙り込む。
十の顔には、同じような表情が浮かんでいる。
はっと目を見開き、呼吸を忘れ、時が止まる。まるで絶対的な支配者に出会ったときのような、そんな……。
「――!」
都尋も、理由もなしに肌が泡立つような、余計な思考が吹き飛ばされるような、敬虔や畏怖に近い感情を抱かされる。
十人の子どもたち以外のものは見ていないのに。耳は無音で満ちているのに。
「――みひろおねえさん」
なおの声が、無音の広場にじわりと落ちる。
「『さっちゃん』と『みっちゃん』だよ」
声に導かれるようにして振り向くと、そこには。
「――そのひと、だあれ?」
ぴったり同じタイミングで、鈴の音と間違えてしまいそうな声を発した、二人の幼子が、いた。




