第九十八話 団らんの中の珍客
我が娘たちが俊也と一緒に東の大陸へ行くと言った時は、ソウジもマリアも流石に苦虫を噛み潰したような顔になり、頭を抱えたものである。俊也も異世界タナストラスにおける父と母に対し申し訳なく、半日程は話もしづらかったようだ。
半日で話のしづらさが解消されたのは、ソウジが折れてくれた部分が大きい。
「娘たちは年端もいかない子供でもないしな。俊也君、君に頼もう。それにしてもここまで君に二人とも執心だったとは……」
「すみません……セイラさんもサキもきっと守りきります。それしか言えません」
「ああ、それでいい。それにしても……はっはっはっ! 君は罪な男だな!」
肩を軽く二回叩き、笑顔で加羅藤姉妹を連れて行くことをソウジは許してくれた。滅多に泣くようなことがない俊也だが、異世界での父の優しさに目から熱い雫をこの時ばかりは流してしまった。
旅の荷物を整え、2日後の出発を控えた三人は、しばらくは帰って来られないであろう我が家で最後の休息を取っている。三者三様に感傷があるようで、特に生家を離れるセイラとサキのそれは一入である。二人とも心置きないように自室に残す家族との思い出の品を見たり、父と母との会話を楽しんでいる。
そう、しばらくという意味では最後の団らんを過ごしている加羅藤家に、珍しい客が訪問してきた。
「ごめんください~。俊也くんいらっしゃる~?」
「はい~。あっ……ディーネさんね? ご無沙汰でしたね」
応対に出たマリアは驚いた。相変わらず妖艶さを隠すこともないディーネが教会に来ることなど、数年に一度あるかないかだからだ。妖しい彼女は努めて丁寧に「ご無沙汰しています~」と挨拶すると、俊也に会いたい旨を伝えた。
「お久しぶりですディーネさん。魔製器のことや炎の魔法を教えて頂いた時は本当にありがとうございました」
「いいのよ。あれはあなたが気に入っただけだからそうしたの」
礼を言われたディーネは笑っているが、どことなく寂しそうでもある。彼女は俊也に渡したい物があり、ここに来たのだ。
「セイクリッドランドへ行くらしいわね。あなたはカラムでは有名人になっちゃったから、町でも噂になっているわよ」
「そうなっていたんですか……。はい。2日後に出発します」
「そう……じゃあこれを渡しておかないとね」
小さな革袋からディーネが取り出したのは、二つの透き通った赤い宝玉……というより魔力がこめられた玉だろうか……それを俊也に見せると続けてこうも言っている。