第九十七話 数枚の乗船券
「セイクリッドランドへはトラネスの港から外洋を渡る船に乗らないと行けません。当分こちらへは戻って来られなくなりますよ?」
「はい。覚悟はしています」
「……俊也さんならそう仰ると思っていました。それでは先にこれを手渡しておきましょう」
トクベエが懐中から取り出し、俊也の前へ静かに置いたのは一つの茶封筒である。確認を取ってから俊也がそれを開けてみると、中身は三枚の乗船券と500ソル金貨二枚だった。
「三枚? あと、この1000ソルは?」
「あなたに協力してくれる方を二人まで連れてきてもよいということですね。銀筒に入っていた別紙にそうありました。1000ソルは私からの餞別です。充分ではないと思いますが路銀の足しにして下さい」
「こんな大金を……ありがとうございます。それに協力者を二人か……」
珍しく腕を組んで考え込んでしまっている俊也だが、同行してくれる協力者に心当たりがないから悩んでいるわけではない。むしろ心当たりが強すぎる、二人の可愛らしい女性のイメージが頭の中を巡っているのにやりきれないのだ。彼も年頃の青少年で、木石ではない。
「はっはっ! 失礼ですが誰のことを考えているか顔に書いてありますよ。……おっと、重要なことを忘れていた。聖騎士についてですが、ネフィラス教において武力と人間としての品格を法王に認められた者だけが許される称号です。ただの名誉的なものではなく、聖騎士を名乗ることができれば、タナストラスにおいて活動の幅が大きく広がるのは間違いありません」
「なるほど。それくらいレオン法王の権威も非常に大きいということなんですね。よくわかりました。ありがとうございます」
説明を十分に受けた俊也は礼の会釈をすると、ようやく見えてきた次の行動へすぐ移るため、帰り支度を始めた。頼もしい紅顔が残る若者へ微笑をたたえ、「ご武運を」と、トクベエは送り出している。
セイクリッドランドからの依頼は期限が切られていない。したがって、まだカラムに留まることもできるのだが、この町にいても、世界を救うための手がかりは得られない。
東の大陸に渡る身支度を進めている三人の姿が、彼らの我が家で見とめられた。
「セイラさん、サキ。本当に一緒に来るんですか?」
「何ですか? 迷惑はかけませんよ?」
「父と母から了承をもらっています。お供させて頂きます」
この紅顔の剣士は三枚の乗船券を美人姉妹に見せてしまったのだ。ただ、それはそうだろう……厄介な男である。