第九十六話 ネフィラス教の法王
「東の大陸にあるセイクリッドランドでは……俊也さん、既にあなたのことが噂になっています。カラムの町に素晴らしい剣士が現れたと」
「なるほど……俺自身は心技体ともまだまだですが、以前、話して頂いた、タナストラスが不穏になった手がかりと何か関係する書簡が来たということですか?」
「ふむ、勘が鋭いですね。その通りです。あなたの強さを見込んだセイクリッドランド法王から書簡として依頼が来ています。報酬は聖騎士の称号の授与と、10000ソルです」
俊也は法王と聞き少し戸惑った。異世界タナストラスへ来る前の日本でも、非常に大きな宗教的権威を持つローマ法王のことは、学校の授業や、テレビのニュースなどを通して、高校生である俊也もよく知っている。この異世界においても、法王という権威は尋常なものではないだろうと考えられる。
(法王自身が俺に依頼を?)
このことである。話が大きくなりすぎてピンと来ないのだ。
「少しこんがらがっているような顔をしていますね。まず、セイクリッドランドがどういう国なのかを説明しましょう」
「お願いします。あと……聖騎士の称号というものについても、どういうものなのか説明して下さい。俺がやって来た世界でも、それと同じ称号はありますが、あまり合点がいきません」
俊也は正直に首をひねって、説明を請うしかない。さもありなんという苦笑を浮かべ、トクベエは目の前に置かれていた紅茶をゆっくりすすった後、まとまった説明を始めた。
「セイクリッドランドは宗教国家です。この世界、タナストラスで最も多くの人々に信仰されているネフィラス教の発祥の地にもあたります。ネフィラス教においての絶対的権威が、その国を統治しているレオン法王です」
「なるほど、少しどういう話か分かってきました」
「よかった。では続けます。レオン法王からの書簡には依頼内容がこう書かれていました」
直接、書いてあることを見せた方が早いと考えたのだろう。立派な銀筒に入った件の書簡をトクベエは広げ、俊也がよく読めるように見せている。それにはこう書かれてあった。
(我が国の北方、瘴気濃き地域の調査をヤザキシュンヤに依頼する。至急、東の大陸まで来られたし)
あとは報酬の事の記述がシンプルにあるのみだ。俊也の思いは葛藤を含め交錯しているが、腹づもりは既に決まっている。
「行きますよ。どの道、それしか選択肢がない」
彼の本質は果断である。迷いのない顔で、トクベエと向き合っていた。