第九十四話 初めての平和
教会の庭で早朝の素振りをいつも通りやっていると、俊也のすぐ前をセキレイが餌を探しながら歩いていった。タナストラスでもセキレイと呼ぶのか分からないが、姿形は日本で見るそれと寸分の違いはない。
(平和だな)
何ともなしに異世界タナストラスの不穏は感じている俊也であったが、ハイオークを討伐して数日間、彼にはサキやセイラなど、ここでの家族とゆっくり過ごす時間が取れていた。気の休まることが少なかった異世界での生活において、今までで一番平穏に過ごせている。
朝稽古を終えた後、俊也はセキレイが庭から飛び立つまで様子を見ていた。教会の庭が気に入ったのか、その小さく愛らしい鳥は俊也の目に構わずよく遊び、そしてどこかへ飛び立って行く。
朝食をゆっくり取った後、何をしようかと俊也は考えていた。
「買い物に行きませんか?」
「あっ! 私も行く!」
俊也はここ数日の平穏な日々を持て余し気味だが、サキとセイラにとっては彼が危地に行かず、教会にずっといるのが嬉しくて仕方がないらしく、姉妹間で取り合いのように俊也と毎日遊んでいる。ここで何をするべきか考えすぎている俊也にも、いい気分転換になっているように見える。
「じゃあ一緒に商店街へ出ますか」
「はい! 行きましょう!」
「やったー!」
美人姉妹は笑顔で喜ぶと部屋へ行き、早速、一番のお気に入りでもあるあの服に着替え、いつでも街に出かけられるようにした。
「ほぉー、これはこれは」
「あら、綺麗ねー」
特別な聖なる魔力が込められた浅黄色の修道服を着たサキとセイラは、もともと姉妹が美しいのと、それを際立たせる品位が高いワンピースにより、歩くと街中の人々の注目の的になっている。誰もが振り返ざるを得ないのだ。
「ちょっと恥ずかしいわね」
「うん、こんなにいい服だから」
服は確かにこれ以上ないものではあるが、そればかりではないだろう。
(ずっと見てきたけど、サキもセイラさんも自分が美人なことを気にしてないというか気づいてないというか)
いくら朴念仁とはいえ、俊也は姉妹の美しさを会った時から知っている。自身の美しさを気にする様子がないのも、彼女たちの魅力の一つなのかもしれない。
買い物が相変わらず好きな俊也は、商店街であっちに行ったかと思えばもうこっちに来ていたり、子供のように楽しんでいた。サキとセイラは浅黄色のワンピースを汚さず俊也を追っていくのに大変そうだ。
「おや? 俊也さんではないですか? 買い物を楽しんでいるようですね」
夢中になっていて声をかけられたのに気づき遅れたが、向き直って顔を合わせると、声の主は商店街を視察中の町長トクベエであった。