第九十二話 見計らう
二匹のオークが大きな断末魔を上げ、土の地面に太った体を放り出すと、何事かと驚き、ハイオークが数匹のオークを従えて小屋から現れてきた。
「……またお前か! 忌々しい!」
「借りを返しに来た……と言いたいところだが、金輪際悪さをしないと誓うなら命を助けてやる」
「はあ? 寝言は寝て言え! おい! お前ら! 囲むぞ!」
以前、辛勝だが、俊也に瀕死を負わせて勝っているハイオークは、完全に彼の今の実力を見くびっている。もとよりこっちの言うことを聞くわけがないと考えていた俊也は、臨戦態勢を解くこと無く、援護をしてくれているテッサイを中心とする討伐隊に目配せをし、孤立して敵に囲まれない態勢はとってある。
「ぐうっ……!? 囲めねえ!? ええい構うこたあねえ! いくぞ!」
「おう! 来てみろ! 全部やっつけてやる!」
テッサイの気味がいい挑発を皮切りに戦闘が始まった! 取り巻きのオーク達はテッサイや討伐隊と斬り結んでいる。態勢がしっかり整っている分、前回よりこちらが有利だ。ハイオークが狙いをつけているのは俊也だけだ。巨大な鋼鉄のウォーハンマーを大きく構え、ハイオークは俊也と対峙しているが、その殺意を既に受け流しているように、静かな正眼で刀を構えた剣士は微動だにしない。
(こいつ……!? 前と全然違うぞ!? まずい……)
このハイオークも百戦錬磨であり、俊也が修行で身につけた実力に構えからすぐ気づいた。巨大な豚の化物の顔からは、嫌な冷や汗がじっとりと滲み出し、しずくが落ちているほどだ。
(…………)
その心理的な虚と怯えを見計らったように、俊也は無言でスルスルとハイオークへ近づいていく。まるで得体の知れないものに対する恐怖で、ハイオークは闇雲にウォーハンマーを振り下ろしたが、既に遅い。空を切り、地面にめり込んでしまったウォーハンマーを抜こうとしている隙を突き、俊也はハイオークの右手をいとも簡単に斬り落とした! あまりの痛さに大きなうめき声を上げ、豚の化物はうずくまっている。
「まだやるか?」
「やらねえ! た、たすけてくれ……頼む!」
周りでオークと戦っているテッサイ達も勝勢であり、あらかたの敵を片付けていたが、草を刈るようにあっさりとハイオークに勝ってしまった俊也を見て、皆、呆然とした様子だ。
戦いを見守っている森は静かだが、その終わりを告げるかのように、カラスが大きな声で一鳴きした。上を向いて見える空からは眩しい光が注がれており、丁度、俊也とうずくまるハイオークを照らしていた。