第九十一話 剣士の誇り
夏であり日差しが眩しい。マズロカへ到着した俊也達、討伐隊一行は、前回の討伐失敗時に世話をしてもらった宿屋へ立ち寄り、今回も一晩泊まらせてもらえるか尋ねている。宿屋の女将は快諾してくれたが、前回のこともあり、瀕死の状態であった俊也の顔もそこへあるのに気づくと、年若い彼をとても心配していた。
「ありがとうございます。大丈夫ですよ」
俊也は女将の気づかいに感謝し、そう会釈を交えて返したが、「あんたは止めといた方がいいんじゃないかねえ」と、無鉄砲な息子を見る母親のような顔で言われてしまった。彼女の不安はあまり拭えないようである。
移動の疲れが取れた翌朝、大きな借りを返すため、一行はハイオークが根城としている森へ向かった。その途中で改めてマズロカ村の様子を眺めてみたが、以前より思ったよりは荒れていない。前回、討伐失敗とはいえ、ハイオーク側が受けたダメージもかなり深いものであったため、村を襲う余力はあまりなかったのだろうと思われる。
森はこれから起こるであろう戦いを知るか知らぬか静寂をたたえ、時折それを感じる意識を気付けるように、野鳥の美しい鳴き声が響いていた。
「オークが出ているな……」
「ええ、ですが親玉がいませんね」
見張りのオークが2匹、根城としている建物の近くで退屈そうに立っている。木陰に隠れ、俊也とテッサイはしばらく様子を窺っていたが、どうも敵に活気が無い。やはり前回のダメージが相当な程度、ハイオーク一味に残っているようだ。剣撃が元で命を落としたオークもいたと考えられる。
「どうする? 俊也?」
「俺が先手であいつらを斬って、釣られて出てくる親玉ハイオークを倒します。テッサイさん、援護をお願いできますか?」
「お前……一人で大丈夫なのか? ボロボロにされた相手だぞ?」
「おそらくは。すみませんがここは任せて下さい」
テッサイは俊也の眼をしっかりと確認したが、この上なく落ち着いた正気がそれに映っている。正直テッサイは困ったが、俊也が取り戻したい剣士の誇りも、修羅場をくぐり抜けてきた傭兵として理解している。彼はやれやれといった顔で他のメンバーに俊也の頼みを伝えると、
「その歳で骨を拾わせるんじゃねえぞ」
「ええ、分かってます。ありがとうございます」
俊也の背中に大きなゴツい手を軽く当て、木陰から送り出した。
刀を抜いた俊也は疾風のように見張りのオーク達に近づくと、自然か当然のように、電光石火で敵を斬り伏せた!