第九話 カラムの町とサキの家
十字を胸の前で切り祈りを捧げると、サキは腰に差していたナイフを取り出し、二匹のラダの尻尾をそれぞれ切ってしまった。
「えっ! ちょっと何をやってるんだ!?」
彼女は修道服を着ているので、何か宗教的な儀式なのかとも思ったが、あまりにも唐突な行動で俊也には意味が分からない。
「ラダを仕留めた証拠として尻尾を切りました。この尻尾を町の冒険者やハンターが集まるギルドに持っていけば、報奨金が貰えます。そのお金は俊也さんの物なので、この世界での足しにしてください」
そういうことかとそれで合点がいった。さらに話を聞くと、ラダのようなモンスターを退治できる人はそんなにはいないらしく、報奨金も1匹あたり結構な高額になるらしい。
「よし! これでいいですよ。カラムの町へ行きましょう」
体のどこに携帯していたのか、小さな獲物袋にラダの尻尾をまとめて入れ、サキは安全な町への案内を急ぎ。二人は街道を進んで行った。
カラムの町。規模はそれほど大きくないながら交易が盛んな商業の町だ。ただ、タナストラスの世界が不穏になっている今、若干町に以前より活気がない。
町の大門前で異常がないか見張り守備をしている門番に、サキは仔細を伝えている。
「へー、あの少年が救世主様かい? えっ! 木剣でラダを二匹仕留めたって!? そんな芸当ができるやつはこの町でも数えるほどしか居ねえよ!? やっぱすごいんだな」
なかなかよく喋る門番なようだ。その話を聞いていると俊也がさっき切り抜けた戦闘でやったことは、かなりのすごさらしい。報奨金も期待が持てそうだ。
「ともかくおかえりサキちゃん。救世主様は俊也と言うのか。ようこそカラムの町へ」
門番は大門を機械仕掛けで開き、二人に歓迎の言葉をかけて町へ通した。
数年前の異変の兆候から若干活気がなくなっているとはいえ、交易の町らしく往来の人々の流れは盛んである。様々な店も多くあるようで、俊也には賑やかな町としか目に映らない。
「こっちにちょっと歩くと私の家があります。家族もそこに居るんですよ」
俊也を見つけ出すために色んな危険をくぐり抜け、帰ることが出来たサキからはホッとした空気が読み取れる。明るく行動力がある彼女の家族はどのような人たちなのか、俊也は会うのに楽しみな興味を持っていた。
時間にして4、5分歩くと教会に着いた。日本の俊也の家に近い場所にある教会より幾らか大きい。かなり立派な造りの教会である。どうやらここがサキの家らしい。
あまり教会という場所に慣れていない俊也が入るのを少し戸惑っていると、サキは「入りましょ」と、彼の手を引いて正門から一緒に中へ入っていった。