第八十話 粗さを矯める
「妙な物を付けられたと思っただろうが、それを鳴らさずに竹剣を振って欲しい。ゆっくりでなく素早くだ」
「素早い振りで全く鳴らさずに!? 分かりました、試してみます」
イットウサイが鈴を鳴らすことなしに、と言ったことで、俊也は半分ほど修行の意図が分かりかけている。しかし、頭では分かっているつもりでも、3つも体に鈴が付けられているため、竹剣を振る度に音は鳴った。
「ふむ。初めてにしては音が小さいな。もう勘所はつかみ始めているということか」
「流石ですね。今の私と同じくらいの音ですよ。それなら」
「しかし……鳴りますね。無駄な動きを正せ、ということですね?」
俊也の短い問いに、イットウサイはゆっくりとうなずく。
「その通りだ。君にはまだ剣に粗さがある。それが無駄な動きとなって鈴の音に現れている。それを正しい動きにしていって欲しい」
「なるほど。では暫く試行錯誤してみます」
「うむ。一つだけ助言しよう。闇雲に数を振るだけでは難しいぞ」
「闇雲では難しい……。助言ありがとうございます」
その言葉を残すと、イットウサイは他の門人の稽古を見るため、本館の稽古場を周り始めた。ユリも「何かございましたらいつでも申し付け下さい」と軽く会釈をした後、俊也の近くで稽古に戻っている。
俊也は精神を研ぎ澄まし、竹剣を10ほど素早く振ってみた。振る度に鈴の音は小さくなっていったが、まだ完全に音を消し去ることはできていない。一旦振るのを止めた俊也は、その場で座禅を組み、さらに精神を研ぎ、自身が竹剣を振るイメージトレーニングを数十分その中で繰り返した。
ユリは門人と稽古を行いながらも、俊也のことが気になっている。チラチラと座禅を組み一向に動かない彼を見ながらなので、自身のことに身が入っておらず、いつもなら打ち込まれることもない門人に打たれることも間々あった。
(精神を集中しているのは分かるんだけど……長いわね……)
自分が集中できていないユリだが、彼女の目にはもう、俊也が気になる男として、先程の自分との好試合から映ってしまっている。気になる異性を追う目というのは、男も女も似た所があるのかもしれない。
そんな風に稽古時間が経っていったが、精神統一が終わったのか、俊也が不意に目を見開き立ち上がった。そして、竹剣を正眼に構え、真に自然な姿で速くそれを振ると、鈴は少しも鳴り響くことがない。10それを繰り返したが、無駄に鳴らず、非常に美しい素振りであった。