第七十二話 良くなったようだね
セイラとサキの治療を受け続け、俊也の傷は完治した。俊也は返しきれない借りが、加羅藤家の美人姉妹に出来てしまったと思っているが、彼女たちにとってはお互い様ということで気にして欲しくはないらしい。いずれにせよ、俊也とセイラ、サキの関係は今回の件で、より親密なものになり、より複雑なものにもなってしまった。
完治させてしまったので、俊也は次の行動に移ってしまう。セイラもサキもそれが心配で仕方なかったが、俊也はタナストラスの救世主としてやって来たのだ。危地に挑み続ける運命になっている。加羅藤姉妹もそのことを納得せざるを得なかった。そして彼女たちの父、ソウジが、俊也の傷が癒えたのを見計らい、こういう話を持ちかけている。
「心配していたが、傷はもうすっかり良くなったようだね。安心したよ」
「ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした……。セイラさんとサキのおかげでもう大丈夫です」
「迷惑はかかっていないからそんなことを言わないでくれ。心配なら随分したけどな。で、傷が治った早々になるんだが、また頼みたいことがあってね」
「お父さん……。俊也さんに無理をさせないでよ……」
ダイニングテーブルに着き紅茶で一服しながら加羅藤一家と俊也で話をしているのだが、サキは死にかけた想い人が、ソウジの依頼でまた危ない目に遭うのではと気が気でないようだった。娘の気持ちは充分、分かっているソウジである。「大丈夫、大丈夫」と軽くサキにささやきながら話を続ける。
「頼みたいことというのは、また商団の護衛だよ。今度はトラネスの町へ行こうと思っている。このカラムからトラネスの街道はよく整備されていてね、賊やモンスターもめったに現れない。だから護衛といっても危険性はかなり低いと考えてもらっていい。君に来てもらうのは念のためと、もう一つ、重要な理由があるんだが……」
「重要な理由? なんでしょう? 気になりますね。護衛の件は受けさせて頂きます」
「そうか。よし! ありがとう。その重要な理由についてはトラネスに着いた時に教えるよ。恐らく君にとっては大きなプレゼントのようなものになるんじゃないかな」
「?? なんでしょうね。そう仰られると期待が膨らみますね」
「ふふふ。楽しみにしているといいよ。出発は明後日だ。それまでに準備をしておいてくれ」
意味深な言い方で話を終えたソウジが、俊也の反応を楽しむような表情をしているのを見て、俊也は何となくいぶかっている。ただどうも、加羅藤一家はソウジが言っていることがどういうことか、何となく感づいている様子だった。