第七十話 いつ治るのかな?
セイラとサキによるキュアヒールがよく効き、俊也の様態は落ち着いてきた。呼吸も今は落ち着いている。その様子に安心した姉妹は、マリアが用意してくれた湯と清拭を用いて俊也の体を拭き清めた。
「ありがとう……。セイラさん……サキ……」
「間に合ってよかった……。いいんですよ。俊也さんが無事ならいいんです」
「そうですよ。元気になって下さいね……」
落ち着いてきたとはいえ、まだ俊也の声には力がない。ボロボロの状態でも自分たちを気遣う俊也の優しさに、セイラとサキは涙を流しそうになったが、グッとこらえて彼の治療を続けている。
タナストラスの我が家に戻れた安堵と、加羅藤姉妹の懸命な治療を受けた俊也は、いつの間にか深い眠りに落ちていた。一応の治療を済ませることが出来たセイラとサキは、彼の安らかな寝顔をじっと見守っている。
俊也の体は3日間、カラム随一の癒し手であるセイラとサキの治療を受け大方治った。骨のひびも完治している。彼にここまでの治療が出来たのは、彼女たちの強い思いもあったのだろう。
「うん! 動ける! 刀も振れるぞ!」
「俊也さん。まだ完全には治ってないんですから無理したらダメですよ……」
「ああ、ごめんごめん。つい嬉しくてね」
教会の庭で、3日間動かせずなまっていた体を慣らすため、俊也は愛用のオリジナル刀を振っている。まともに動けるようになったのが非常に嬉しいようで、心配そうに見ているセイラにたしなめられてもいるが……
「運動はそのくらいにして家に戻りましょう。今日も治療をしますよ」
「そうですか。分かりました。確かにまだ本調子には遠いな……。後どのくらいで完治しますか?」
「そうですねえ……。まあそのうちですよ」
「うーん? 何かはっきりいつ治るか言ってくれませんよね?」
今回、ほぼ瀕死の一歩手前の状態だった俊也を、セイラが主導で治療したことにより、彼女と俊也の親密さはとても大きく増した。サキも治療を頑張ったが、恐らくサキだけでは俊也を救うことは難しかっただろう。
俊也が自分に対して以前よりくだけた様子でよく話したり笑いかけたりすることに、セイラはとても満足して嬉しいのだが、反面、彼を完治させてしまうと、また死の危険がある危地に行ってしまうのが見えているので、それはセイラには受け入れられず、いつ治るかと俊也が聞いてくる度にはぐらかしている。
セイラは病み上がりの体の試運転が済んだ俊也を、家に連れて行こうとしていたが、ちょうどその時、教会の正門に客が訪れた。それは、今のセイラには会いたくない……というより敵に近い人物である。