第六十九話 嫌な予感
「大丈夫かな……俊也さん……」
「……私たちには無事をお祈りすることしかできないわ」
その頃、カラムの町の教会では、セイラとサキが俊也の身を案じて神竜ネフィラスに深い祈りを捧げていた。祈りを捧げつつも、二人は嫌な予感がよぎらずにはいられない。
「セイラ! サキ! いるのか! すぐに来なさい!」
激しく正門の扉を開け、何時になく慌てた大声で父のソウジが姉妹を呼んでいる。不安が現実のものになってしまったのか……セイラとサキはそう思いつつ、すぐに外へ駆け出ていった。
外に出ると、ハイオークによる大打撃と高熱に浮かされ、ほとんど瀕死の状態である俊也が、テッサイの肩に支えられて辛うじて立っている。
「「俊也さん!!」」
セイラとサキは同時に絶叫し、俊也の両脇をそれぞれ支えるため、彼に駆け寄った。
「セイラさん……サキ……。すまない……」
「いいんです! 喋らないで下さい! サキ! 俊也さんの寝室へ連れて行くわよ!」
「分かったわ! 俊也さん……」
加羅藤姉妹の肩を借り、俊也はなんとか教会住居の自室へ向かっていくことができた。テッサイは面目なさそうだが、勿論こうなったのはテッサイのせいではない。
「テッサイさん。俊也君を送り届けてくれてありがとうございます。後は娘たちが彼を助けますよ」
「ああ……。なんというか……すまない……」
「テッサイさんがいなかったら、俊也さんは命を落としていたでしょう。何を謝る必要がありますか。こちらは感謝してもしきれないくらいです。本当にありがとうございます」
ソウジとマリアは拝みたいくらい、俊也を助けてくれたテッサイに感謝していたが、テッサイの心は晴れないようで、昨日からの雨空が残る教会の庭でしばらく佇んでいた。
俊也を寝室のベッドに寝かせると、セイラとサキは彼の服を脱がせて、ウォーハンマーによる大打撃を受けた打撲部分を確認した。今の姉妹は俊也を救うことしか考えていない。患部を確認するとセイラはサキに湯と清拭を用意するように指示を出し、自身は看護用の清潔な白衣に着替えると、俊也の患部に手をかざし、キュアヒールの魔法で治療を開始した。
流石にカラム一の癒し手による回復魔法である。その回復光はサキのものとは強さからして違っていた。俊也はセイラの守護符を身に着けていたとはいえ、打撃を受けた部分は骨にヒビが入っている。だが、セイラの力ならそれも時間をかければ治せそうだ。
マリアに湯と清拭を頼んで戻ってきたサキも、セイラが回復魔法をかけているのとは異なる、もう一方の大きな患部に手をかざし、キュアヒールの魔法を同じくかけ始めた。サキもカラムでは指折りの癒し手だ。彼女たちなら俊也をきっと救えるだろう。