第六十七話 こいつは……!
俊也が放った凄まじい斬撃はハイオークの胴に食い込んだかに見えた。しかし、図体に似合わず反応が速い大豚の化物は、鋼鉄のウォーハンマーで彼の刀を防いでいる。
「ほう……腕はなかなかのようだな。危なかったぞ。」
(決まらなかったか……確かに今までのやつとは違う!)
力ではハイオークに敵うべくもない。俊也は鍔迫り合いの状態から素早く後ろに下がり。正眼に構えつつ間合いを取り、ハイオークの隙を探っている。テッサイの方は2匹のオークに対して奮戦しているため、助けは今頼めない。
隙がない俊也の構えを見て、ハイオークは完全に彼の力量に気づいたようだ。腰を据えてどのような攻撃にも備えられるように、ウォーハンマーを強靭な腕で構えている。双方相手の隙が見出だせず、少しの間、対峙の時が流れた。
その中のある瞬間、森の野鳥がハイオークの頭上をかすめるように飛んで行くと、一瞬、大豚は表情と態勢をひるませ、大きな隙を見せた。俊也はそれを見逃さず一気に前進し、刀でハイオークの左脇腹を渾身の集中で突く! 刺突に手応えはあり、左脇腹に深く刺さったが、瞬間的にハイオークが身をひねったため急所は幾らか外れている。
「痛えぇぇ……クソガキがぁぁああ!!!」
あまりの痛みに我を忘れたハイオークは、俊也の脳天目掛けうなりをあげるようにウォーハンマーを振り落とす! 俊也は転瞬、刀とともに身を引いたが、凄まじい鉄塊をかわしきれず、左腕のプロテクター部分に攻撃を受け、身を弾かれてしまった! ミスリルのプロテクターの防御力と、セイラの守護符が効いているため、まだ戦えるが、今の左腕は思うようには動かない。
(これは……今の俺じゃ勝てない……)
戦闘で生き残るには相手と自分の力量を正確に判断するのが重要である。俊也は自分の今の強さがハイオークにはやや及ばないことを悟った。テッサイはオークの内、一匹を倒したようだが、もう一匹にまだ手こずっている。ただ、テッサイも俊也の状況が分かっているようだ。
「俊也! それ以上は戦うな! ここは撤退するぞ!」
「分かりました! ですが……」
憤怒のハイオークは簡単に討伐隊を逃すつもりはない。左脇腹への刺突は効いているが、俊也との距離を太い大足で詰めると、怒りのなぎ払いを低い軌道で放つ!
「クソガキがぁぁああ!! ぶち殺してやる!!!」
刀で膂力が乗ったウォーハンマーを受けつつ引き、俊也は攻撃を受け流しているが、持ちこたえられず再び弾き飛ばされてしまった!