第六十五話 マズロカ村へ
「討伐隊の皆さん、お集まり頂きありがとうございます。これからオーク討伐に向かって頂きますが、この依頼はかなり難しいものです。そのため、カラム選りすぐりの精鋭10名であるあなた方に頼みました」
今朝の空はやや曇っている。季節は夏になりかけだったが、多少肌寒い朝だ。その天気のように、トクベエの顔も心なしか少し曇りがある。
「マズロカ村のオーク達による被害は大きくなって来ており看過できません。特に、村の女性の誘拐については決して許せないことです。ハイオークの首領を中心とするオークの集団は危険ですが、討伐の成功を願います。ご武運を」
トクベエの挨拶が終わり、討伐隊10名はマズロカへ出発した。長くはない挨拶だったが、その内容からもこの依頼が困難なことが分かる。気負うわけではないが、俊也の身はいつもより引き締まっていた。
ジャールの町へ俊也たちが護衛として行った時のように、討伐隊は馬屋で馬をそれぞれ借りている。俊也もテッサイも馬上の人になり、西のマズロカ村へ順調に進んでいた。
「ハイオークってのは、この間戦ったアイスドラゴンより幾らかでかい。ドラゴンのようにブレスは吐かないが、知恵があり武器を使う。他のオーク達とも徒党を組むのも厄介だ」
「チームワークを持っているということですか?」
「一応はそういうことだな。人間の軍隊ほどは練れていないが、連携して動くことができる。ハイオークの力も相当なものだ。まともに攻撃を食らったら一発だぞ」
「なるほど……。これは今までの相手とは全然違いますね……」
軽く馬を走らせ道を急ぎながら、テッサイは俊也に今回の強敵について説明をしている。慢心があると、とんでもないことになりそうだと、俊也は聞きながら自身の心を準備させていた。
馬を急がせたのでマズロカ村へは夕方前に着くことができた。ジャールよりさらにひなびた長閑さが感じられる。しかしながら、所々、オーク達に襲われたと見られる、崩れた家屋や荒れた畑が片付けられることもなく存在していた。外で畑仕事や物作りをして働いている村人の顔も、暗く冴えない。
「今日はもう遅い。宿を取って、明日オークの根城になっている森に向かおう」
討伐隊のリーダーであるテッサイが指示を出し、馬屋に馬を預けた後、一行は宿に泊まり英気を養うことにした。宿の女将はカラムからオーク討伐に来た彼らを下にも置かず歓待し、心ばかりだが精一杯のご馳走を用意してくれている。