第六十四話 美人姉妹の思い
いつになくセイラは思い詰めた表情をしている。俊也は護符を受け取ると、それからかなり強い魔力を感じ取った。それは彼を守るような何かである。
「セイラさん、これは?」
「私が癒やしの魔力を込めて作った護符です。これを身に着けていれば手傷を受けたとしても、それは軽減されます。薬を使った時など、傷の治りも早くなります」
「そんな凄いものを作ってくれたんですか……」
セイラにそれほどの心配をかけている責任の重さのようなものを感じながら、俊也は暫くもらった護符を見ていた。丁寧に作られたそれの材質は絹であり、彼女の思いの強さが字にも込められている。
「実は、娘のセイラはカラムで一番の癒し手なんです。ですが、魔力でここまでの物を作り、殿方に渡したことは今までありません。娘の気持ちを酌んで無事に帰って来てください。私も同じく案じています」
「私も姉さんが本気で作った護符を初めて見たわ……。これは私には作れない……」
マリアとサキがそう説明してくれているが、敢えて今までセイラは、自分の力を見せていなかったのかもしれない。サキが持つ癒やしの力も、カラムで5本の指に入るほどだが、姉との力の差に悔しがっているようにも見える。
「俊也さん……。私は姉ほどのことはできませんが、無事をお祈りしています」
「絶対に戦闘時には護符を貼って下さい。無事をお祈りしています」
「分かった……。行ってきます」
美人姉妹が強い思いを込めて、俊也の手をそれぞれ握っている。朴念仁過ぎる彼だが、彼女たちの柔らかな手から、セイラとサキのためにも絶対に無事戻らなければいけないと感じ、手をそれぞれ優しく離した後、教会を出発した。
集合場所の町役所前には、4、5名の屈強な男たちが既に待っていた。その中にはテッサイもいるし、アカオオジシなどモンスター討伐をした時に顔見知りになった者もいる。俊也はそれぞれに挨拶し、テッサイにも会釈をした後、彼と会話を始めた。
「少し早めに来たので、まだ人数は揃ってませんね」
「ああ。まあそのうち皆来るだろう。それはいいんだが……今回はキツイかも知れんぜ」
「教会を出る時も今まで以上にすごく心配されましたよ……。ハイオークがいると聞きましたが、そんなに強いモンスターなんですか?」
「うん、知恵がある分、この前戦ったアイスドラゴンより厄介だろうな。それはマズロカに行きながら話してやるよ」
そんな話をして待っていると、所定の時間になり人数が全て集まった。それを中から見計らっていたのか、役所から町長のトクベエが現れ、オーク討伐へ出発する彼ら一団に簡単な挨拶を始めている。