第六十三話 わずかながらの情報
少し経つと、役所内で働いているある女性が紅茶を運んできてくれた。俊也はその女性に会釈をしてカップを持ち、少し紅茶を飲んだ後、トクベエが次の話を切り出している。
「ほんのわずかですが、世界が不穏になっている原因についての情報が入ってきています」
「えっ! 本当ですか! ぜひ聞かせてください」
「はい……。私たちがいるのは西の大陸なのですが、タナストラスにはここから大海を挟んで東にも大陸があります。その大陸の王国、セイクリッドランドからの旅人がこういう噂を持ってきてくれました」
タナストラスへ来て初めて、この世界が不穏になりつつある手がかりが聞けると思い、俊也は身を乗り出していた。トクベエは彼を見ながら紅茶で喉を湿らせると、言葉を続ける。
「東の大陸のはるか北方……氷に閉ざされた大地、そこからおびただしい量の瘴気が漏れ出ている。噂はこういうものです。後ははっきりしたことは分かりません」
「なるほど……。その情報だけでも、そこには何かがありそうな雰囲気がしますね……」
「どの道、寂しくなりますが、俊也さんの勇名が広まりもっと強くなれば、あなたは東の大陸へも行くことになるでしょう。そしてそれは近いうちに」
「…………」
「話したかったことはここまでです。まずはオーク討伐をお願いします。3日後に再びこの役所前に来て下さい。その時に討伐隊が集まります。報酬は5000ソル、今、半金を渡しましょう」
そこまで話を進め、上質紙に包みあらかじめ用意しておいた500ソル金貨5枚をトクベエは俊也に差し出した。俊也は一礼をし報酬金の半額を手に取り、正式に依頼を受けている。
3日後の朝。加羅藤一家が教会の前で、討伐に向かう俊也を送り出している。皆、彼を心配しているが、特にサキとセイラの心配は尋常ではない。大きな好意を寄せている俊也の身に何かあってはということからだが、彼はタナストラスが平穏平和になるまで、これからも危地に向かい続けるだろう。加羅藤家の美人姉妹は厄介な男を好きになってしまったのかもしれない。
「じゃあ行ってくるよ。マズロカという村に寄ってオーク討伐に向かうから、何日か帰れないと思う」
「分かった。充分気をつけるんだよ。もし無理があれば、一旦カラムに戻ってきなさい」
「そうですよ! 依頼より、とにかく無事に戻ってきて下さい!」
「うーん。何かいつもより心配されてる気がするなあ」
安心して送り出されはしないだろうとは俊也も思っていたが、今回はソウジもサキも彼の身を相当気にかけている。それだけオーク討伐が難しいということなのだろうか。
「俊也さん。戦う前にこれを肌に必ず貼って下さい」
そこまで黙っていたセイラが俊也に渡したのは、彼女の丁寧な字で書かれた手の平サイズの護符であった。