第六十一話 町長トクベエからの使い(真紅の宝玉についての説明部分有り)
アイスドラゴンの首の換金後、数日が経った。その間、俊也はカラムの鍛錬場で剣術の練磨に勤しんでいる。彼にはタナストラスを救うという大目標があり、それにこの世界での俊也は齢を取らない。その分、時間を貴重にし、自身の強さを高めることに余念がない。
そう鍛錬をして何日か過ごしていたが、ある日、教会に戻るとマリアから来客があったことを伝えられた。
「町長のトクベエさん方から、お使いが来られてましたよ。俊也さんに知らせたい情報があると仰ってました」
「そうでしたか。ありがとうございます。それを待っていたんです」
この世界での10年は日本での1日だ。俊也にとっては全く焦るほどの時間は経っていないのだが、数日を鍛錬のみに費やしていたので少し現状の手詰まり感が彼にはあったようだ。マリアから知らせを聞いてかなり喜んでいる。
タナストラスと日本の時間の流れについて再び上述しているので、サキが世界同士の歪みを開いて来るのに使った真紅の宝玉の説明をしておきたい。タナストラスから地球の例えば日本へ来て時間が経つと、上述の時間の比率だと再びタナストラスに戻る時、年単位で時間が進んだ後の世界へ戻ることになってしまうが、宝玉の持つ力で、地球へ転移する前の空間と時間の記憶ができ、地球から戻る時はその記憶した場へ帰れる。ただし、あまり地球で長く過ごすと宝玉の力があっても帰還時に時間のズレが少なからず出る。
反対に俊也がタナストラスから日本へ帰る場合だが、真紅の宝玉はタナストラスで作られた物なので、異世界である地球の日本では働きが制限され、タナストラスへ来る前の時間の記憶まではできない。それでも時間の流れの比率で言えば帰還時のズレは大したことがない。極端な例で言うと100年タナストラスで過ごしたとしても、日本では10日しか進んでいないことになる。
サキの性格からか、この辺りの説明を端折って俊也をタナストラスへ連れてきたので、筆者が代わりに説明させて頂いた。この部分に引っ掛かりを感じていた方もいらっしゃったのではないかと思われる。
翌日の朝、俊也は町長トクベエがいる役所へ向かった。この日もカラムの町の往来は賑やかだが、やや曇天の空である。
役所に着き総合案内で用件を伝えると、程なくトクベエが迎えに現れ町長室に通された。トクベエは俊也が来るのを心待ちにしていたようで、早朝から町長室にいたらしい。入ってきた情報を伝える以外にも俊也と話がしたいトクベエは、部屋に入ると早速会話を始めた。