第六十話 お袋の味と大物の換金
加羅藤姉妹の間は俊也の取り合いで一触即発の様相だったが、なんとかならないものかと俊也が苦し紛れに取り出した聖なる反物をセイラに見せると、彼女はそれの美しさと神秘性に目を丸くしている。これが功を奏し、その場は丸く収まった。この反物は加羅藤家の女性陣の修道服を仕立てるために買ったのだと伝えたところ、マリアもセイラも非常に感激し、セイラなどは嬉し涙を浮かべて俊也に抱きついている。サキは目の前でそれを見ていたわけだが、姉の気持ちもよく分かるだけに無理やり引き離すわけにもいかない。
「こんな素晴らしい反物を買ってくれた俊也君の気持ちは十分伝わったよ。仕立ての代金と店選びは私に任せてくれ。最高の物を誂えさせよう」
一家の長であるソウジも俊也の心意気にいたく感動し、後のことを引き継いでくれた。彼の人脈に頼めば、想像以上に素晴らしい修道服ができそうだ。
久しぶりに俊也を交え一家が揃った加羅藤家では、マリアが腕をふるってご馳走を作り、その晩餉はさながらホームパーティーのようであった。タナストラスでのお袋の味をしっかり噛み締めた後、俊也は自室のベッドで月明かりを眺めている。そしていつの間にかぐっすり眠っていた。
翌日の朝。カラムのギルドに、俊也とテッサイの姿が見える。彼らの目的はもちろん……
「うひゃ~~! たまげたなあ! 俺は長いことこの仕事をやってるが、ドラゴンの首を見るのは初めてだ!」
「とっつぁん、こいつを狩るのは苦労したぜ! なあ俊也!」
「はい。嫌な汗をかきながら、なんとか狩れました」
そう、アイスドラゴンの首を換金するためである。魔法のリュックから取り出された鋭い目を見開いたままの首を見た時、ギルドの親父も縮み上がっていた。俊也とテッサイは得意そうな表情だ。
「で、とっつぁん。幾ら出せるんだ?」
「そうだな。物が物で値をつけるのが難しいが……6000ソルでどうだ?」
「それは……凄い金額ですね……」
予想の上をいった報酬額に、彼ら二人は喜ぶというよりは顔色を変えて驚いている。手に入った大金を前もって取り決めていた通り、俊也が3割、テッサイが7割でそれぞれに分けて懐に仕舞った。金額で言うと、俊也が1800ソル、テッサイが4200ソルの取り分だ。
とんでもない獲物と大金による換金のやり取りを見ていた周りの荒くれ者たちは、目をむくように誰もが凝視していた。ジャールの酒場と同じように、カラムのギルドからも俊也とテッサイの勇名は、アイスドラゴンの討伐により広がっていくだろう。