第五十九話 カラムへの帰還と強大な恋敵
その後、ジャールでの残りの日数を、俊也は引き続きサキと一緒に過ごした。有名で効能がある温泉にも入り、温泉街の散策も二人でよく楽しんだ。アイスドラゴンから受けた傷の治療を、サキが懸命にしてくれたのもあり、俊也とサキの親密さは恋人同士のものと言ってよくなっている。
彼ら……特にサキにとっては夢のような時間が流れていたが、楽しい時間というものは過ぎるのが早い。ソウジの行商が良い結果で終わり区切りがついたので、ジャールからカラムへ帰る日が来た。
(楽しかったな~。俊也さんと仲良くなれたし)
サキはそんなことを思いつつ商団の馬車から、馬上の人になり護衛をしている俊也の顔をよく眺めている。彼女は満ち足りた表情でともすればニヤついてしまいそうだが、カラムに帰ることで一抹の不安がないこともなかった。
(カラムに帰ると姉さんがいるのよね……。まだ安心はできないわ!)
そのことがサキにとっては重大事である。姉のセイラが彼女にとって一番身近で最大の恋敵だ。油断はできないと気合を入れ、サキは独り言をつぶやいている。その様子を同じ馬車内で見ている父のソウジは、何かおかしな物でも食べたんだろうかと怪訝な顔だ。
カラムへの帰路は平穏そのものだった。ソウジの商団は北の大門よりカラムの町へ入っている。往来が賑やかな繁華街の道に差し掛かると、俊也はタナストラスでの故郷に戻ってきた実感にホッとしている。
我が家である教会に帰ると、それを心待ちにしていたマリアとセイラが出迎えてくれた。ソウジ、サキ、俊也の顔を彼女たちは見て、胸に手を当てとても安心している。ここに来る前に商団を解散しているため、テッサイは自分の住居へ既に帰っている。護衛の報酬である半金の1000ソルも渡し済みだ。
「おかえりなさい。無事帰ってきたわね」
「おかえりなさい。父さん、サキ、それに俊也さん」
マリアとセイラはソウジたち三人の帰還をとても喜んでいるが、セイラは妹のサキと俊也との雰囲気がジャールへ向かう前とは全く違っているのにすぐ気づいた。二人の距離の近さを見て顔には出していないが、心中穏やかでなくセイラからは恐ろしいオーラが漂っている……。
「サキ。楽しい旅だったようね~。俊也さんと仲良くしてたの?」
「ええそうよ。色んなことをして一緒に遊んだのよ~。楽しかった~」
サキは強力な恋敵である姉に一歩も引かない様子だ。静かな目でサキを睨むセイラから、傍らの俊也はどのモンスターと対峙した時よりも危険を感じていた……。