第五十七話 そろそろ自信がついた
「すごい宝石が付いてるブローチね……。これは?」
「洞窟の最深部から持って帰った物です。洞窟の主とも戦いましたよ」
「ええっ!? それじゃ、宝物も主がいるのも本当だったのね!?」
伝聞でジャールの洞窟についての噂を聞いているので、ユリアは実際に俊也たちが回収した白銀の宝玉を見て非常に驚いている。俊也とテッサイが洞窟に入る前、彼女は洞窟についての情報を知っている限り彼ら二人に話したが、実のところユリアも半信半疑だったようだ。
「そうですよ。ユリアさんの情報がとても役に立ちました。それで土産話じゃないんですが、話をしに来たんですよ」
俊也は珍しく饒舌だ。洞窟内で強敵と戦い勝った余韻がまだ残っているのかもしれない。彼は入った洞窟の内部のことや、苦戦したアイスドラゴンのこと、白銀の宝玉がどこにあったかなど、喋りがそんなに得意でないながら、ユリアに向かって夢中になって話している。その話はユリアにとって興味深く、一生懸命話してくれる俊也の誠実さにも好意を持っているようだった。
「へぇ~、なるほどね。すごく面白い良い話だったわ」
「そうでしたか。話して良かった」
「このお話は、うちの酒場で他のお客さんにも伝えさせてもらうわよ。これで、洞窟を探検して怪我をしたり亡くなったりする人もいなくなるわ」
「分かりました。もう洞窟に入る理由がないから、そうした方がいいですね」
「うん。あと、この町の傭兵さんと守備兵さんたちにも言って、アイスドラゴンの死骸を確認してもらうわね。あなた達のことはこの町から噂になっていくわ」
俊也はテッサイと示し合わせ、ユリアにうなずいて見せた。いずれ自分たちの勇名が広がる時期が来るだろうと彼は考えていたのだが、苦戦しながらもアイスドラゴンを倒したことでタナストラスでの自信がついたようだ。そろそろ本格的に動き始める頃合いかもしれない。
酒場女のユリアに話すことを話した後、俊也とサキはテッサイと一旦別れ、二人きりのデートを楽しんでいる。別れたというより、テッサイが気を利かせて何処かに行ってしまったと言った方がいい。サキはそのことに心底感謝しているが、朴念仁の俊也はそれが分かる風もなく歩いていた。ちなみに酒場で使った金額は20ソルだけで、今回もテッサイがおごってくれている。
「おっ! 面白そうな物を売ってそうだな! 行ってみよう、サキ」
「ちょっ……。俊也さん! そうだった……。俊也さんが買い物好きなの忘れてた……」
珍しいものが並ぶ温泉の商店街に、俊也の射幸心がたまらなくなったようだ。矢も盾もたまらず行ってしまっている彼を、慌ててサキは追っていた。