第五十六話 心配してたわよ~
中に入ったものの俊也たちは既に昼食を取った後で、酒場も開いたばかりの時間だ。店内の客もまだまばらで空いている。このことも俊也は狙っていたようだ。とりあえず三人はテーブル席に着き、看板娘のユリアが注文を取りに来るのを待っていた。程なくユリアが来て、俊也とテッサイの姿を確認しホッとして喜んだ。
「いらっしゃい。あら!? あなた達、無事だったのね!? 良かった~、心配してたのよ?」
「ええ。けっこう危なかったんですが大丈夫です。また柑橘ジュースが飲みたいんですが、注文していいですか?」
「ええ。もちろんいいわよ。おじさん、あなたも無事で良かったわ~。あなたは、お酒がいい?」
「だからおじさんじゃねえって! それはともかく心配してくれててありがとうよ。今日はワインじゃない酒を軽くもらおうか」
「ふふっ、ごめんなさい。お兄さんって呼ばないとね。じゃあ、蒸留酒のお湯割りでいいかしら?」
「おお、いいな。それを軽くくれ」
「分かったわ。お嬢さんは彼氏と同じのでいい」
「彼氏……!? はいはい! それをお願いします!」
注文を取り終えるとユリアは「ちょっとだけ待っててね」と言い残し、カウンター内に入って行った。サキは「彼氏……彼氏かあ」と俊也の顔を見ながら顔をほころばせている。酒場へ入るのに気が進んでいなかったサキだが、ユリアの一言で完全に機嫌が直ったようだ。女心は秋の空とはよく言ったものである。
「お待ちどおさま~。これで注文は今のところいいかしら?」
「おお! ありがてえ! と言っても……もう飯を食った後だしな。こんなもんでいいよ」
「ええ、ありがとうございます。ユリアさん、今ちょっと時間あります?」
「あるわよ。でも、横に彼女がいるのに私を口説いちゃダメよ~」
「ええっ!? 俊也さん!! どういうことです!!」
俊也がユリアを誘っていると思ったのか、サキが立ち上がり、すごい剣幕で詰め寄ってきた。俊也はタジタジだが、妙な勘違いによる彼女の誤解を解こうと必死に説明した。
「いやいや……違うんだ。情報を教えてくれたユリアさんに洞窟であったことを話そうと思っただけだよ」
「ああ……びっくりした。そういうことですか」
「なるほどね。とても興味があるわ。聞かせてちょうだい」
サキが落ち着き、ユリアが空いてる席に座って、俊也とテッサイの冒険譚が聞けるようになると、俊也は持ってきていた白銀の宝玉が付いたブローチを取り出し、話をし始めている。酒場には徐々に客が入りつつあるが、時間が時間だけにまだペースはゆっくりだ。