第五十三話 見たことがある御宝
御宝は程なく見つかった。広がっている空間内で光る苔が一層多く生えている場所があり、そこに幾歳月置かれていたか分からないが静かに存在している。その御宝の形状は俊也にとって馴染みがあるものであった。
「これは……。サキが持っているのとそっくりだ……」
「そうなのか? かなりの大きさの宝玉だが……。御宝って感じはするな」
特に罠のような仕掛けは無いことを確認すると、俊也は宝玉がはめ込まれたブローチを手に取り、それをしばらく観察している。傍らのテッサイも覗き込むように見ていた。神秘的な輝きを持つ宝玉で、ブローチの形も宝玉の大きさもサキが持っている物と瓜二つだったが、この宝玉の色は白銀である。そしてじっくり見ていると心が穏やかになるのを二人は感じ、御宝がある周囲だけは立ち込める瘴気が微塵も感じられない。
俊也は一つ、その御宝にいぶかった。サキが持っている真紅の宝玉は、俊也に近づけるとまばゆい七色の光を発したのだが、これにはその反応がない。同じ系統の物と考えているのだが、それが何故なのか彼には分からなかった。
「俊也。この御宝はお前が持っていけ。相当な物なのは分かるが俺が持っていても仕方なさそうだ。何かいわくがありそうだしな」
「えっ!? いいんですか? テッサイさん?」
「ドラゴンを倒した報奨金を7割貰っていいってお前に言われたからな。これが埋め合わせだよ」
「そうですか。ありがとうございます! サキのブローチとそっくりなんで気になっていたんです。何か分からないけど……」
「ふむ? サキちゃんはそんなに似た物を持ってるのか? 偶然でもなさそうだな」
白銀の宝玉を回収し、俊也とテッサイは洞窟の帰り路でそういった会話を交わしている。この宝玉の神秘的な加護が働いているためか、洞窟の入り口まで危険にあうこともなくすんなりと脱出することが出来た。外に出ると陽の光が眩しく暖かさが心地よい。時間は昼を少し回っているくらいと、手で軽く遮りつつ見た太陽の位置から確認できた。
「いや~、本当だな。サキに助けてもらうことになっちゃったよ」
「こんなひどい怪我をして……。すごく心配していたんですよ……」
サキは泣きそうな顔で、俊也が右肩に受けた傷を必死にキュアヒールの魔法で治している最中だ。俊也とテッサイの二人が半日程で帰ってきたからまだ良かったものの、サキは心配のあまり彼ら……特に俊也を待っている間、何も手がつかなかったようだ。食事すら何も取っていない。あっけらかんと明るく笑いながら治療を受けている俊也を見て、心からの安堵を感じるとともに彼を責めたいような甘えたいようなサキ自身もよく分からない感情が湧き上がっていた。