第五十話 ジャールの洞窟・B2F
地下2階に降りると苔の光りはもう少しだけ強くなり、さらに辺りを確認しやすくなった。それでも光の十分さは足りないが、深部に進むごとに明かりが増すというのは、探索をしている俊也とテッサイには不思議にも感じられる。
「テッサイさん……。ここは瘴気が濃いですね。いよいよかもしれません」
「そうか。ここが最深部かもな。どんなとんでもないのがいやがるんだろうな」
二人には洞窟の主と出会う不安より、期待のほうが大きいようだ。戦士としての心根をテッサイは持っているが、剣道でとはいえ剣の修業を幼いころから続けていた俊也にもそれは備わっているようだ。
苔の明かりと帽子についているランプの灯火を頼りに進んでいくと、1階と地下1階で見た小さな影とは異なる、奇っ怪にも見えるうねうねとした動きをする何かに彼らは遭遇した。ランプを向けてよく見ると、それはそこそこ太い縄ほどの胴回りがある蛇のモンスターである。
「……!?」
その姿を見た俊也は一瞬声も出さずにぎょっとしたが、すぐに刀を下段へ構え直し、蛇のモンスターに攻撃を加えた。素首を狙って斬ったところ、首が離れた胴部分は少しの間のたうち回っていたが、やがて死骸となり動かなくなる。俊也は斬った蛇の首を観察してみたが、目が退化しているようで、申し訳程度に小さな働きの弱いものがついている程度だった。ただ、口の牙は鋭い。
「気味が悪いだろう? 洞窟なんかの光が届かない所にいるブラインドスネークというモンスターだ。こいつらも群れてやがるから、一匹いるとなるとうじゃうじゃいるぞ」
テッサイがそう解説すると、まさにブラインドスネークが群れをなして足元に近づいてくる! クロギツネより俊敏さのない動きだが、地を曲線的に動くそれらに二人は面食らい気味である。俊也もテッサイも下段に剣と刀を構え、弱点の素首を斬っていったが、人気のない洞窟で繁殖していたのか蛇の数はいかんせん多い。
「おおっっ!? くっっ!」
「テッサイさん!?」
かなりの数を斬り匹数が少なくなったところで油断があったのか、後ろから回り込んだブラインドスネークにテッサイは脚を噛まれてしまった! 即座に俊也が救援に入り、牙を突き立てている蛇を斬り払う! このままでは埒が明かないと考え、俊也はファイアブレイドを作り出し立て続けに3匹のブラインドスネークを斬った。残りわずかにいた蛇は炎をまとった刀を恐れたようで、その場から遠くへ逃げてしまった。
「助かったぜ……」
「すぐ手当をしましょう」
魔法のリュックから毒消しとポーションを取り出し、俊也は応急処置をした。蛇の毒は中和され傷も回復しテッサイの動きに支障はなさそうだが、完全に治すには町でしっかりした治療を受ける必要がある。だが、ここまで来て引き返すのもしゃくに障る。彼らは瘴気の濃い地下2階をさらに進むことにした。