第五話 行ってみるよ
俊也とサキは、丹精込めて作られたご馳走を美味しくいただいた。で、気さくでこだわりがない俊也の両親も、流石に彼女さんは自分の家に帰るのだろうと思っていたが、
「わけがあって今日は家に帰れないんです。厚かましいんですが泊めて頂けませんか?」
と、サキが申し訳なさそうに頼んできたのには驚きを隠せない。
「そうなのね。いいわよ。お布団を出してあげるから一晩泊まっていきなさい」
驚きはしたが、やはり俊也の母は優しい。丁度、明日は土曜日で学校は休みだ。笑顔で快くサキを受け入れ、客間で眠れるように用意をしようとしたのだが……
「あの……すみません。できれば俊也さんの部屋で寝たいんですが……」
と、彼女がとんでもないことを言ってきたのには、俊也の両親も俊也も完全に固まってしまった。
「……俊也。お前、もうこの娘さんとそんな関係だったのか……。まあちょっと落ち着こう、落ち着こう」
真面目で奥手なうちの息子がこんなに進んでいたとは……と、完全に勘違いし、慌てている両親に、
「いやいやいや! 違うんだよ! サキ! 何言ってるんだよ!」
この場の誤解を何とかしなければと、しどろもどろながら弁解のようなことを言い、客間で寝るようにサキを説得した。
「どうして一緒の部屋で寝るのがダメなんです?」
サキをどうにか説得できたが彼女は納得がいかず、俊也にきょとんとした顔で問いかけている。就寝にはまだ時間があるので、俊也の部屋で話の続きをしようとしているようだ。
「ダメに決まってるだろ! 父さんと母さんに何を言い出すのかと思ったよ……まったく」
何を怒っているのかさっぱり分からないという顔でサキは俊也を見ている。
「まあいいや。で、俊也さん。タナストラスへ一緒に来てくれませんか? 時間などのことなら、ご飯前に話した通り大丈夫です」
サキは頼み込むような表情で俊也の顔をじっと見続けた。彼も顔をシリアスなものに変え、
「俺なら、サキとその世界を救えると言うんだな? 俺じゃないといけないと……」
サキに確認をするのに、彼女は黙ってうなずいている。
「……一晩考えさせてくれ」
俊也はそうとだけ言い、その後の彼は言葉少なで、サキが自分自身の事やタナストラスの色んなことを話すのも、ほとんど上の空で聞き、自分のベッドに就いた。
イベントが多い金曜の夜だったが、みんなぐっすり眠り、よく晴れた土曜の早朝をそれぞれ迎えた。
俊也の朝は早く、彼の両親がまだまだ起きない内から、家の庭で素振りを行っている。やはり、十年に一人の逸材と言われるだけはある。ビュッビュッと木刀の剣風が素晴らしい。
「おはようございます~。俊也さんはとても早起きなんですね」
よく眠れたようではあるが慣れない異世界で寝たのもあり、サキも早起きをしてしまったようだ。俊也の母に貸してもらった花柄が小さくついているパジャマを着て、寝ぼけまなこをこすっている。
「ああ、おはよう。サキ、俺は行ってみるよ」
迷いが吹っ切れた顔をしている。優しい目をした俊也だが、その双眸には強い決意が見て取れる。
「本当ですか! ありがとうございます!」
「うん。支度をして出よう。サキがやって来たところまで連れて行ってくれ」
彼らは「少し急な用事を思い出したので、外に出てます。すぐ戻るよ」と、俊也の両親に宛てた書置きを残し、簡単な支度を整え、しばらく戻れないであろう我が家を後にした。