第四十九話 ジャールの洞窟・B1F
階層を1つ降りると、意外にもそこはぼんやりと明るかった。壁に光る苔がわずかに生えていて、それが洞窟の暗がりを所々照らしている。だが、その明るさは十分なものではない。
「苔のおかげで思ったより目が利きますね」
「ああ。多少はまた何かモンスターが出てきても楽だろうが、構えながら進まねえとな」
俊也とテッサイは抜かりなく臨戦の構えを取り、周囲に注意を配りながら進んでいる。この階層もそれなりに縦横の広がりがあり、二人が剣を振って戦うことはできる。ジャールの洞窟の由来自体は酒場で聞けなかったが、自然にできた洞窟ではなさそうである。
気を張りながら少しずつ進んでいくと、1階で見覚えがある黒い小さな影が複数動いているのに二人は気づいた。構えを崩さずジリジリとそれにテッサイが近づくと、小さな影は敵意を剥き出し飛びかかってくる!
「チッ! こいつめ!」
歴戦の剣さばきでテッサイはクロギツネの素早い飛びかかりを斬り伏せた。仲間の一匹がやられたことに気づき、群れで行動していたクロギツネたちが俊也たちへ一斉に飛びかかる!
ファイアブレイドをとっさに作り出した俊也は、クロギツネの群れを正確な狙いで一匹一匹斬り、無傷である。1階より目が利き、クロギツネの素早さに慣れたテッサイも同様で、彼らは手こずらずモンスターを撃退できた。
「群れの頭数が少なかったな」
「1階でかなり斬りましたからね。それもあるんでしょう」
この階層での安全度が高くなり、二人とも幾分ホッとしている。まだ下へ続く道があるかどうか、その後、俊也とテッサイは探索を続けた。
しばらくあれこれと洞窟内を探っていたが、この階層はどこを見ても袋小路になっている。だが彼ら二人は洞窟にいると聞いた強力な主に出会っていない。それをいぶかり俊也とテッサイはしつこく探索を続けた。すると……
「……あっ! テッサイさん! この岩は動きますよ!」
「なに! そういうことか! 二人で動かすぞ!」
二人の男手で大岩を横にずらすと、期待通り下の階層へ続く道が現れた。このような仕掛けがあるということは、いよいよ意図的に作られた洞窟であることの証明になるだろう。
酒場女ユリアの情報では、洞窟はそう深くないということだ。主とお宝との出会いも近いかもしれない。俊也とテッサイは気をもう一度引き締めつつ、注意をしっかり払いながら地下2階へ向かっている。光る苔が照らす明かりは幻想的だが、彼らはそれを気に留めて楽しむどころではない。