第四十七話 ジャールの洞窟へ
酒場女のユリアから一通りダンジョンのことを聞いた後、俊也たちは商団が取っている宿屋に戻り、その日はゆっくり移動の疲れを回復した。
翌日。ソウジはサキを連れて取引先の商店へ品物を納めに宿を出ている。ソウジは行商を生業として行く町行く町において、露天のような形で店出しもしているが、主な取引は彼が持つ町にある商店同士のネットワークを使った大口取引であり、そのためソウジはこの辺りで名の通った商人であることを自負しているのだ。
雇い主のソウジは商談があり、俊也とテッサイは既にソウジへジャールの洞窟に向かうことを伝えてある。ソウジは「あなた達に何かあったら帰れなくなるからね。十分気をつけるんだよ」と、幾らか心配していたが、俊也たちの腕は知っているので特に引き止めることもなかった。
「おう。威勢のいい声が聞こえてるな」
「本当ですね。聞いてて気分がいいです」
洞窟に入るためジャールの木材切り出し場へ行き、少しの間、職人たちの仕事ぶりを見ている俊也とテッサイの姿があった。早朝から気味のいい大きい声が聞こえてくる。職人同士が息の合った仕事で木材を手際よく切り出すのは見ていて爽快だ。
「一応、洞窟に入ることを職人さん達に伝えておきますね。万一がありますから」
「そうだな。大丈夫とも言えねえしな」
勝手に洞窟に入り、万一のことがあった場合いろんな人々に迷惑がかかることになるので、仕事中の職人の統括をしている現場の長へ俊也は話をしに行った。何かあった時に洞窟内を捜索して欲しいわけではなく、今日中に俊也たちが戻ってこない場合、ソウジへ連絡してもらいたいのだ。これで有事の迷惑は最低限で済む。
洞窟の深さについてもユリアが少し教えてくれたが、それほどではなく一日あれば十分探索が可能という話だった。ただ、モンスターの強さはなかなかなので危険は多分にある。現場の長は俊也の話を聞くと「物好きだなあ。止めはしねえが危なくなったらすぐ戻りな」と、半ば呆れ気味な返事をしていた。
「ここがそうでしょうね……。雰囲気がありますね……」
「うん? 怖気づいたか俊也?」
「いやいや。ダンジョンに入るのは初めてなんでちょっと観察していただけです。入りましょう」
俊也とテッサイは、小型ランプ付きの丈夫な帽子をそれぞれ頭に被り、大きな口を開けている洞窟内へ歩を進めていった。洞窟内ではこのランプの明るさが頼りになる。ゲームやマンガ、小説などの世界でしか見たことがないダンジョンへの進入に、俊也は胸躍っていた。