第四十五話 酒場女ユリア
俊也たち三人が入った酒場は、ジャールの町で木材関連の仕事をしている職人の客と、温泉を楽しみに来た観光客とでちょうど半々を占めていた。ガラの悪い客は居ず、ひなびた温泉街に似つかわしく和やかに酒が飲める場所だ。
「テッサイさん! 俺は本当に飲めませんって!」
「わかってるわかってる。無理に飲ませねえよ。酒以外のもあるだろ?」
「私も当然飲めませんからね。心配で来ただけですから」
テッサイが俊也に酒を勧めるのが一番の心配だったが、それはないようでサキは一つ胸を撫で下ろした。だがもう一つ気がかりがある。酒場女だ。
(私ってこんなに嫉妬深いんだな……俊也さんに会うまで気づかなかった……)
自分の女としてのそういった感情を認めざるをえないサキだったが、その目は酒場女がいないかどうかに行っている。あちこち目を配るまでもなく、美しく目立った看板娘と見られる女が給仕をしているのにすぐ気づいた。
「あらいらっしゃい。かわいいお客さんね。あなたにはお酒はちょっと早いかな?」
「はい……何かジュースのようなものがあれば頂けませんか?」
「おう! 俺はいくらでも飲むぞ! それとツマミを持ってきてくれ。肉がいい」
「はいはい。ジュースは美味しいのがあるわよ。柑橘ジュースを持ってくるわ。お酒はワインでいいかしら? おつまみは鶏の照り焼きを持ってくるわね」
「おう! いいな! そうしよう」
「そこのお嬢さんは何にする?」
「私も柑橘ジュースを下さい」
看板娘はオーダーを取り終え「以上ね。ちょっと待ってて」と言い残し、カウンターの中へ戻って行った。俊也もサキも酒場という場所に馴染みがなく、初めはそわそわしていたが、荒くれ者がいない落ち着いた店の雰囲気に安心し、次第にくつろぐことが出来てきている。そうこうしている内に看板娘が飲み物とツマミを、俊也たちが座っているテーブル席に持ってきた。
「はいお待たせ。ジュースとワインはここでついであげるね」
「おお! いいな! ありがとう。ところであんた、なんて名前なんだ?」
「私はユリアって言うの。口説いてもダメよ? おじさん?」
「おじさん!? そりゃあひでえなあ! 俺は30になったばかりだぞ」
「そんなに若かったんですか? テッサイさん? 貫禄があるから40歳くらいかと思っていました」
「おいおい! 怒るぞ俊也!」
酒場に慣れてきた俊也も、そんな軽口が自然と出てくるようになっている。ついでに彼は、気になっていたジャールにあるというダンジョンについてユリアに聞いてみることにした。