第四十三話 出番が来た!
商団がその後しばらく進んでいると、街道の左手に鬱蒼とした森林が広がる地点に差し掛かった。カラムからジャールに移動する時の危険ポイントとして知られている場所だが……。
「……」
「やはりここか……。気づいているか? 俊也?」
「はい。森に妙なのがいますね。様子を見ているということは飛び道具は持っていなさそうですが……」
「そうだな……。馬車を先に行かせて、俺たちはそいつらを追っ払うとしよう。仕事だ」
「分かりました」
俊也とテッサイは馬を翻し、ソウジとサキが乗っている馬車を先に行かせた。「任せたよ。気をつけてな」「気をつけてくださいね……」と、それぞれが馬車から心配するのに後手を振って、護衛の二人は応えている。その様子を森から窺っていた族? と思しき者たちが、狙っていた馬車が先行していったので、慌てて姿を現した。
族は族だが、獣人コボルトの集まりだ。俊也の見込み通り弓矢などの飛び道具は持っていないようだが、それぞれ剣や棍棒などの得物を持っている。簡素な軽い鎧も身につけているが、それはそれほど丈夫ではなさそうだ。
「おい! そこをどきやがれ!」
「どくわけないだろう。お前らのようなのを追っ払うのが仕事だからな。大人しく退くなら見なかったことにしといてやるぞ」
「チッ! ……ガルルル……!」
テッサイの忠告を聞いても退く気はないようだが、コボルト達は警戒している。獣人独特の野性味がある勘で、俊也とテッサイの強さが尋常ではないことが分かるようだ。護衛の彼らは既に馬から降りて臨戦態勢を取っていた。
「こっちのほうが数が多い! 囲んでやっちまえ!」
「そうはいくか!」
コボルトの内、リーダー格の一匹が指示を出そうとしたのを皮切りに、俊也が素早く刀を抜き距離を詰め、たちまちの内に2匹のコボルトを斬り伏せる! それを見たテッサイも得物を抜き、残り5匹のコボルトとの乱戦が始まった。
数が多いとはいえ軽装のコボルトである。俊也は実戦経験をタナストラスで積んでおり、テッサイは歴戦の手練だ。間合いも考えず闇雲にかかってくるコボルト達を次々に斬り伏せ、残るはリーダー格のコボルト一匹になった。
「クッ……! 逆にこっちが囲まれたか!」
「向かってきたからには逃さねえよ。覚悟しろ!」
俊也がリーダー格のコボルトの前を、テッサイは後ろを取っている。もう逃げ場はないコボルトは、破れかぶれに俊也へ剣を振りかぶった! だが振りかぶる前に気配を察知し、俊也は瞬時に間合いを詰め、刀で急所を深く突き刺している。
リーダー格のコボルトは断末魔を上げることもなくその場に崩れ落ちた。戦闘が終わった後の街道と森には、驚くほどの静寂が染み渡っている。