第四十一話 遠出の護衛を頼みたいんだ
久しぶりの楽しい晩餉も終わり、マリアとセイラ、サキは食卓の上を片付けていた。ソウジは食後のお茶をゆっくり飲みながら俊也にある重要な話をしようとしている。
「いい食いっぷりだったよ。やはり男の食い盛りは見てて気持ちがいいもんだな。さてと……話は変わるが頼みがあるんだ」
「何でしょう? 僕にできることなら伺います」
「うん。私が帰ってきた時に、行商の護衛を頼むかもしれないと言ったね? 頼みはそれなんだ。一週間後、ジャールの町へ商いに行く予定があってね。俊也君、君が一緒に来てくれれば心強いんだが……」
「そうでしたか。分かりました。同行させて頂きます。僕もこの周辺のことをもっと知りたいと思っていたのでとてもありがたいです」
「そうか! ありがとう! 恩に着るよ! 報酬もしっかり払わせてもらう。2000ソルだ」
俊也は行商護衛の仕事における支払い相場について知らないが、タナストラスでの物価感覚に慣れつつあるので、2000ソルが相当な額であることは分かっている。
「それは高額だと思うんですが……頂いていいんですか?」
「はははっ! 見くびってもらっちゃ困るな。私はこう見えてもこの周辺ではちょっと名のしれた商人なんだよ。多少語弊があるかも知れないが、持ち合わせはあるし、どこでどういう金を使えばいいかの感覚にも自信はあるつもりさ」
「すみません……失礼なことを言いました……」
心底しまったと思ったのか、俊也はソウジに対して平謝りに謝った。ソウジはその様子に少し慌てて、
「いやいや! 半分は笑い話を交えた冗談のつもりで言ったんだよ。謝ることはない。君は真面目でとても純粋だな。ちょっと純粋すぎるかも知れないが……」
「「お父さん! 俊也さんをいじめたらダメですよ!」」
「いやいや……そう怒るなよ、マリアもセイラも……。すっかり私が悪者だな……」
今度はソウジが妻と長女に参らされてしまった。ソウジの話は大人の冗談を交えたものであったことは理解したが、女性陣にかばわれた俊也は、バツの悪そうなソウジを見てなおさらいたたまれない。
「まあともかくだ……前金に1000ソルを渡しておこう。ジャールの町での商いが無事終わり、カラムに戻ったら残りの1000ソルを渡すよ。遠慮なく受け取ってくれ」
「ありがとうございます。ところで、護衛は僕一人ですか?」
「いや。もう一人強い男に頼んでいる。この町の傭兵長テッサイだ。俊也君は彼と一緒に仕事をしたからよく知っているだろう」
「テッサイさんですか! よく知っています。それは心強いです」
「そうだろう。よし、これで話は決まった。時間は一週間あるからね。その間は準備を整えたり、休暇を取ったりして待っててくれ」
俊也が快く「分かりました」と返事をして、その話は終わった。食卓から立ち上がり、俊也は自室に戻ろうとしたが、セイラとサキがボードゲームなどをしながら一緒に話したいとせがみ、彼はセイラの部屋に連れて行かれてしまった。ソウジとマリアはその様子を微笑ましい目で眺めている。