第三十七話 魔法の修行・総仕上げ1
火の魔法を自分のものにするため、ディーネに鍛えてもらっている俊也だったが、その修行も三日目で最終日になっている。今日も川原に来ているが、昨日よりやや川の上流のそれに二人はいる。
「……ここは何か瘴気が濃くないですか? 昨日の川原とは全然違う……」
「あら、やっぱり気づいた? そうよ。ここにはこの川原一帯の主がいるわ。まあもうちょっと上流に歩いてみましょうか」
上流であるため、川の流れが岩に当たって作られる水しぶきは、涼しげで心地よく見えるものだったが、辺りに立ち込める瘴気は非常に強く俊也の鋭敏な感覚に刺し込んでくる。それに充分注意を払いながら、彼はディーネともう少し上流に歩いていった。
「でかいのがいますね……あれですか?」
「そうよ~。あの大きい子は昨日の小さい子たちとはちょっと違うわよ~」
俊也とディーネが見ている川原の水辺に、とんでもなく大きいリバースライムが一匹居座っている。遠目に見れば愛嬌すら感じられるのだが、その大きさは昨日やっつけたリバースライムの4、5倍はあろうかというものだ。普通のリバースライムの大きさは、俊也の股下より少し小さいくらいの高さと幅だから、親玉のそれは見上げるほどの大きさだ。
スライムが吐き出す酸を中和するコーティングは既に自分で塗っているので、俊也は刀を抜き、親玉スライムに少しずつ近づいてみることにした。距離をゆっくり詰めているので、こちらにはまだ気づいていない。
「あの大きい子の弱点も火の熱だけど、1、2回ファイアブレイドで斬ったくらいじゃやっつけられないわよ。それと攻撃を受けてもうダメ~ってなると、あの子は自爆して酸を撒き散らすから気をつけるのよ。そうなったら兆候があるからすぐ逃げて」
「なるほど……ありがとうございます。気をつけて何とかやってみます!」
ディーネからのアドバイスを頭に入れつつ親玉スライムとの距離を詰めていくと、親玉もこちらに気づいたようで、ウネウネと巨体を這わせながら俊也に近づいて来る。俊也は精神を集中しファイアブレイドを作り出し、いつも通りの正眼に構えた。親玉スライムは火の魔法にいっときたじろいだようだったが、その後構わずスピードを上げて俊也に近づいて来ている。
「よし! 行くぞ!」
気力と勇気を充分に高め気合声を発すると、俊也は鍛え抜いた脚の瞬発力を使い一気に親玉スライムとの距離をゼロにし、ファイアブレイドを果敢に巨体目掛けて突き刺し跳ね上げた!