第三十六話 ディーネと魔法の修行その4
(やれやれ……。タナストラスの女の人ってどうなってるんだろうな……)
ディーネから怪しげな液体を全身に塗られた後、俊也は川原のあちこちにいるリバースライムと対峙している。まだこちらにスライムたちは関心がないように見えるが、俊也は刀を構え、ファイアブレイドを作り出すために精神を集中した。
「よし! この感覚だ! 後はこいつらを斬っていけばいいんだな」
リバースライムの動きは緩慢である。近くにいる二匹に近づき、俊也は瞬く間にファイアブレイドの熱を利用しそれらを斬った。だが、湧いているスライムの数は相当なものだ。
また他のリバースライムに斬りかかろうとしていたが、ようやく危機を察知したスライムたちは、俊也の方へわらわらと寄って行き始めている。その中の一匹が唐突に彼目掛けてドロっとした液体を吐き出した!
「なにっ! これは酸かよ!」
液体の体への直撃は避けられたものの、いくらかは脚に付着してしまったようだ。リバースライムの体液はなかなかの強さを持つ酸のようだが、ディーネが塗ってくれた怪しげな液が効いていて酸を中和している。俊也にダメージはないが、多少の熱はその部分にあった。
「塗っててよかったでしょう~。その液で体をコーティングしてるから、スライムが酸の液を出してきても多少はもつわよ。でも、あんまり攻撃を受けすぎると危ないわよ~」
「そうだったんですか……。じゃあ早く片付けた方がいいな」
動きのスピードを上げた俊也は、寄ってきているリバースライムの群れを次々とファイアブレイドで斬っていく。その中で酸液をかわしきれず体につくことも何度かあったが、コーティングが効いていて問題なく退治を続けることができた。
「よし! こいつで最後だ!」
大量に湧いていたリバースライムだったが、ここの川原では最後の一匹が残るばかりだ。俊也はここまでの余勢を使い、素早く間合いを詰めて兜割りに溶かし斬った。後の川原に残っているのは、プルッとしたリバースライムの破片だらけである。
「いいわね~。上出来上出来」
修行の様子を見守っていたディーネは俊也に「ちょっと避けててね」と言うと、持っている小さなワンドから炎を作り出し、残っていたリバースライムの破片を全て溶かしきってしまった。
「これでいいわ~。今日はここまで。明日が総仕上げになるわよ」
(サキが言った通りだな……。本当にディーネさんの魔力は凄いんだ……)
いとも簡単に川原の掃除を炎の魔法で行ったディーネを、呆気に取られた顔で俊也は見ざるを得なかった。