第三十五話 ディーネと魔法の修行その3
意外に美味しいディーネの料理を食べ、へとへとに疲れた体をぐっすり休ませた翌日。
「おはよ~。かわいい寝顔だったわよ~。食べちゃいたいくらいだったわ」
熟睡していた俊也が目を覚ますと、微笑を浮かべて彼の寝姿を眺めているディーネの顔が間近にあった。サキともセイラとも違う、大人の魅力を朝から醸し出している彼女に俊也はドキッとしている。
「お、おはようございます……。すみません、寝過ぎちゃいました」
「いいのよ。私が早起きなだけだから。さてと……かわいい寝顔も見れたし朝ごはんにしましょうか」
「あっ! 作るの手伝います」
「大丈夫よ。もう作っちゃったから。一緒に食べましょ」
座って俊也を見ていたディーネは立ち上がり、食事を用意しているテーブルへゆっくり移った。俊也も慌ててベッドから身を下ろし後に続く。
「俊也くんを見てると、弟を思い出すわね……」
「えっ?」
「ううん。なんでもないわ。しっかり食べてね。今日は昨日より大変になるわよ~」
影のある少し沈んだ表情でディーネは呟いたように見えたが、すぐいつもの調子に戻り、俊也が食べる様子を何となく幸せそうに見ながら彼女もパンをちぎり、ゆっくり食事を取った。
今日の修行は川原で行うらしい。
「俊也くん。あっちを見てみて」
「ん!? 何かよくわからないものがけっこうな数いますね?」
川原のある場所をディーネは指差している。そこにはウネウネと動く不定形で透明な奇っ怪に感じられる何かがたくさんいた。
「あれはリバースライムよ。この川原にいるモンスターなの。しばらく退治してなかったから、かなり数が増えてるわね」
「スライムですか……。あいつらをやっつけるのが今日の修行ですか?」
「そうよ~。でも、そのカタナがよく斬れるといってもスライムは斬れないわよ。手応えがないと思うわ」
「ということは……ファイアブレイドで斬るんですね?」
「そうそう。実戦でファイアブレイドを使いこなせるようにするのが今日の修行よ」
会話をしながら説明をしていたディーネだが、ポーチの中から薄青色の透明でぬるぬるした液体が入っている小瓶を取り出し、
「ちょっとじっとしててね」
と、俊也の体にその液体を塗り始めた。もちろん服や装備の上からである。
「な、な、なんですかこれ!?」
「大丈夫大丈夫。塗っててよかったと後で思うから」
何が大丈夫なのか全くわからないが、俊也はおとなしくディーネにぬるぬるした液体を塗りたくられた。