第三十三話 ディーネと魔法の修行その1
竜節祭の翌日。
先日のモンスター退治で使った鋼鉄のプロテクターをつけている俊也の姿がカラムの街路に見える。昨日の賑やかさが嘘のようで、今朝の商店街は静かなものだ。出店がまだ片付けられていないものもあるのが、いっそう祭りのあとの静けさを強調させていた。
「よし。迷わずに来れたぞ。かなり早い時間だけどディーネさん起きてるのかな?」
昨日、ディーネが念を押した通り、俊也は一人で彼女の魔術店を訪れている。まだ早朝と言っていい時間で、俊也が持つディーネのイメージからすると起きているとは考えにくい。
少し店の扉についている呼び鈴を鳴らすのをためらったが、まごまごしていても埒が明かないので、俊也は鈴の高いよく通る音を鳴らしディーネを呼んだ。するとすぐにディーネは扉を開き出てきた。
「いらっしゃ~い、俊也くん。ちゃんと朝早くに来てくれたわね。嬉しいわ~」
「おはようございます、ディーネさん。意外に早起きなんですね。」
「あら、ちょっと失礼じゃない? 私がお寝坊さんだと思った?」
「うーん……。まあ正直に言うとちょっと思ってました」
物怖じせずはっきりと言う俊也を見て、ディーネは声を出して笑っている。
「ほんと素直な男の子ね、あなた。ますます気に入ったわ~。3日間でしっかり鍛えてあげる」
「よろしくお願いします。頑張ってみます」
その後、店で紅茶を飲んで少しの間一服し、俊也の修行のために二人はある場所に向かった。
移動した場所はすっきりとひらけていて、小川が近くを流れている川原近くの草原である。ここで3日間ディーネと寝泊まりをするのだろう、小さいながら造りは悪くないちょっとした建屋もある。
「いいところですね。ここで魔法の修行をするんですか?」
「そうよ~。じゃあ早速始めましょうか。持ってきた「カタナ」って言ったわよね? それを抜いて構えてちょうだい」
背中に背負っていたオリジナルの刀を俊也は腰に付け直し、言われた通り抜刀して得意の正眼に構えた。相変わらずいい構えだ。
「オッケー。じゃ、始めは難しいでしょうから、私が火の魔法を使うためのきっかけをちょっとあげるわ」
ディーネはゆっくりと構えたままの俊也に近づいている。近づく内に何かを思い出したようで、
「大事なものを忘れてたわ~。この手袋を両手につけてみて」
と、ポーチから薄くなめらかな布で作られた手袋を取り出し俊也に渡した。一旦、彼は刀をしまってそれを両手につけ、改めて刀を構え直す。
「よくわかりませんがこれで大丈夫ですか?」
「いいわ~。じゃあ、あなたのお手てに……」
ディーネは艶かしい様子で俊也の手に右手を軽く乗せ、静かに目を閉じて魔力を微量に送った。